パワーを生むフィンの要素

 フィンのパワーは、やはりフィンの動かし方が重要です。本文3と4について詳しく解説します。

【ストロークの弧の幅(長さ)】

 同じ角度の変化なら、半径が長い方が短い方より、弧の長さ(幅)は長くなります。鳥の羽ばたきみると、羽の先端部の方が胴体に近い部分より広がっています。

 人の脚には、股関節、膝関節、足間接、三つの動く連結部があります。股関節から中心に足の指先までの長さと、膝から足の指先までの長さは、股関節からの長さの方が長いので、股関節を中心にした弧と、膝を中心にした弧では、同じ角度の変化なら、股関節を中心にした弧の方が、足の先端のストロークの長さは長くなります。

 大きいストロークは、それだけ水をとらえている時間が長くなりますから、1キックあたりの効率は向上します。
 鰭(ヒレ)の大きいクジラと鰭の小さな小魚をイメージしてください。クジラは大きな鰭を1回1回ゆったりと動かして大きな身体で泳いでいます。小魚は鰭を小刻みに振るわせせっかちそうに泳いでいます。フィンを履いた脚全体をクジラや小魚の鰭にたとえると、フィンキックは、股関節を中心に脚全体をゆっくり動かし、フィン先端の弧の長さを大きくすることが、効率のいいフィンキックになります。
 フィンは、大きくゆっくり、動かしましょう、といわれるところです。

 水面移動と水中移動では、ストロークの範囲が違います。
 空気を蹴っても進まないので、スノーケリングのフィンキックでは、アップストロークの終点は水面で、そこからダウンストロークに移ります。つまり水面移動時のフィンキックは、フィンを水面返す、がこつです。パッタンパッタンと水面をたたくキックはよくありません。かといって身体が斜めになるくらい水面下でキックすると、上半身に必要以上の揚力が働き、身体は立っていくのでフィンの効率は向上しません。

 水中では、ダイバーはすっぽりと水に囲まれていますから、身体の前側の範囲だけでなく、後ろ側の範囲まで、ストロークを広げることができます。ストローク幅の範囲だけでいえば、水中の方がフィンの効率を引き出します。

 フィンの役割は効率の向上です。しかし水の中を泳ぐ者にとって、「流体中を進む物体に働く流体の抵抗力は、その物体の進行方向の関数で、速度の二乗に比例する」、という自然の定めるところから逃れられません。つまり進行方向に対しての自分の断面積を最小にする姿勢をとり、無闇にスピードを出さないこと、がフィンキックでは大切なのです(注1)

 進行方向に対する最小の断面積を得るための泳ぐ姿勢は、水面に並行、です。

【アタック角 】

 フィンキックは水の抵抗力を、いかにして水平方向の分力を最大まで引き出すかがポイントです。その要素となる、フィン固有の性質(ブレードの面積や柔らかさ)と人的要素(ストローク弧の長さ)について述べてきましたが、これらを有効に働かせるには、、フィンが、ストローク上を移動しているときの、ストローク線とブレードの角度が重要です。これをアタック角といいます。特にダウンストロークからアップストローク、アップストロークからダウンストロークに移るときのアタック角が最も重要で、このときの角度が、その後のストローク上のフィンのシナリに影響します。

 フィンは、「ゆっくり大きく動かすかす」とありましたが、いくら大股にといっても、歩幅に限界があるように、フィンの効率を最大に引き出すストローク幅にも限界があります。これを有効ストローク幅といいます。

 また、泳ぐ姿勢は「水面に並行に」とありましたが、ブレードも有効ストローク幅内で、常に水面に並行になるようにフィンを持っていけば、それによって水の抵抗力によるフィンのシナリを作りだせます。これによって最適なアタック角が得られます。

 脚には、股関節、膝関節、足関節の三つの連結部がありましたが、それぞれ駆動部としても働きます。
 

大腿部から足先まで1本の棒のようでは、脚全体に掛かる負担が大きすぎて、かえってストローク幅はとれなくなります。

膝だけでは、フィンストローク幅は小さく、進行方向に対してな充分な分力は得られません。

膝を引きつけるようでは(自転車をこぐときの脚の動き方)、フィンは水平に滑っているだけです。

足の甲が地面に立っているときのようでは、ブレードは水面に対して直角に入ったり出たりしているだけで、ブレードは水をキャッチしません。

 この例のように連結部を個別に動かしたり、水の抵抗力から逃げるような動かし方をすると、フィンは効果を発揮しません。バタ足キックでもフィンキックでも、股関節、膝関節、足関節のコンビネーションが大切になります。

 図に示すように、脚をつま先までピンと伸ばすと、脚の中心線と足の裏の延長線には角θがあります。これから、膝をじょじょに曲げ足の裏が水面に並行に付くようにします。このときの膝の曲がりの角度は角θと同じです。この角度が、膝を曲げる限界の角度です。これを限界角度と名付けました。

 この角度を保持しながらダウンストロークに入り、ダウンストローク終了時には脚がまっすぐ伸びるという感じです。そこからアップストロークに行きますが、水面に到達するまでは膝は曲げません。意識的にやろうとしても、なかなかうまくいかないので、フィンが水面に近づいたら、足の裏を巻きこむようにしてかえすと、ちょうどいい膝の角度が得られます。

 スクーバで潜っている場合でも、有効ストローク幅内でこれを行なえば、最も効率のいいブレードのシナリが得られ、最大推進力となる分力が得られるのです。

 フィンに関して、これまで詳しい解説が省かれていました。その理由は前項でふれましたように、面積の大きいフィンを付けて泳ぐのですから、どんな動かし方をしても進み、泳いでいるうちに、何となく脚の動きがそれなりになっていくからだと思います。

 しかし、海へ出る、海から帰る、それはフィンの推進力だけが頼りなのですから、フィンを上手に使うことは、体力の消耗といった面からも大切なことなのです。ちょっと面倒でしょうが、以上のことを考えながら練習すれば、回り道しないでフィンキックをマスターできtると思います。

 基本さえマスターすれば、疲れたときには、縦はさみ足、横はさみ足などキックの方法を変えて一部の筋肉に掛かる負担を軽減したり、慣性力を生かした泳ぎをしてみたり、さまざまなフィンワークのバリエーションができてきます。そして、水中という立体運動空間を自由に移動し遊ぶことができます。人は決して魚になれませんが、「上手に美しく」泳げば、魚もきっと歓迎してくれるに違いありません。(注2)

 

(注1)

水面移動と水中移動では、空気と水の粘性や慣性力、揚力の受け方などの諸条件があり、フィン競泳では、これらと人の筋力や心肺機能、レギュレーター(呼吸器具)の給排気性能などを厳密に考えなければなりません。

(注2)

「フィンの推進力」の項は、30余年ほど前に書かれた「スキューバの基礎知識(フレッド・M・ロバーツ著)」を参考に、ダイビングやフィン競泳の指導をしてきた経験をもとに記述しました。