〔減圧表の修正を考える〕
体内に窒素(組織不活性ガス)の気泡が現れない限界の値、つまり減圧比Sは次式によって与えられます。
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S=組織不活性ガス/環境圧=PN2/PB |
海面では、PB=760mmHg |
2438mの湖面では、PBh=564mmHg |
実際のみくりが池(2410m)の湖面では、PBh=579mmHg |
で、一般に組織不活性ガス圧が環境圧の2倍を越えなければ、減圧症は発症しないとされています(ホールデンの2:1の定律)。この値を安全減圧比といっています。但し、各組織によって不活性ガスの溶解・排出時間が違うので、曝露時間を考慮して減圧表は作られています。
海15mの全圧をP15seaとすると、
P15sea=760(mmHg)×2.5=1900(mmHg)
このときの組織窒素分圧をPN15seaとすると、
PN15sea=1900(mmHg)×(80/100)=1520(mmHg)
となります。
安全減圧比Sは前式より、
S=PN2/PB=1520(mmHg)/760(mmHg)=2.0
で、安全減圧比内におさまります。
次に、2438mの湖面、PBh=564mmHgでの減圧比を計算してみます。
湖の15mの全圧をP15lakeとすると、
P15lake=564(mmHg)+(760(mmHg)×1.5×0.97)≒1670(mmHg) (実際のみくりが池では1685(mmHg))
となります。
このときの組織窒素分圧をPN15lakeとすると
PN15lake=1670(mmHg)×(80/100)=1336(mmHg) (実際のみくりが池では1348(mmHg))
減圧比SLをみると
SL=PN15lake/PBh=1336(mmHg)/564(mmHg)=2.36≒2.4 (実際のみくりが池では2.3)
となり、安全減圧比2.0を超えてしまい、減圧表を従来通り使用すれば発症が危惧されます。
それでは、減圧表をどのように使用したらよいかを考えてみます。
海の場合の減圧比が2.4になる圧力PNseaを計算すると、
PNsea/760(mmHg)=2.4 (実際のみくりが池では2.3で計算)
PNsea=760(mmHg)×2.4=1824(mmHg) (実際のみくりが池では1748(mmHg))
PNsea=1824(mmHg)になる深さが、湖15mに潜水する場合の圧力に相当します。それをXとすると、
1824(mmHg)=X(mmHg)×(80/100)
X=2280(mmHg) (実際のみくりが池では2185(mmHg))
すなわち減圧表深度dは、
d=((全圧/海面圧)−1)×10=
((2280(mmHg)/760(mmHg))−1)×10=20(m) (実際のみくりが池では18.75(m))
以上の結果、標高2438mの湖の水深15mの潜水では、減圧表の21m欄を採用しなければならないことが分りました。
〔実際の深さ〕
次に、2438mの湖の、実際の深さ(水の厚さからみた水深)を計算すると、
((1670(mmHg)/760(mmHg))−1)×10=11.9≒12(m) (実際のみくりが池では12.1≒12(m))
となり、高所潜水では、減圧表深度は深くなり、水の厚さからみた水深は浅くなる、という当初の見込みが証明されました。
〔3m減圧点深度は〕
以上の結果より、減圧深度も減圧比から求めればよいことがわかります。
水深3mの減圧点深度の組織窒素ガス分圧を3PNとすると、
海の場合
3PNsea=760(mmHg)×1.3×0.8=790(mmHg)
湖の場合
3PNlake=(564(mmHg)+(760(mmHg)×0.3×0.97))×0.8=628(mmHg)
(実際のみくりが池では640(mmHg))
水深3mの減圧比3Sは、
海の場合 3Ssea=790(mmHg)/760(mmHg)=1.03
この場合 3Slake=628(mmHg)/564(mmHg))=1.11 (実際のみくりが池では1.10)
となります。減圧点3mの修正は、同じく湖の減圧比が海のどのくらいに相当するかを知ればいいのですから、
3Ssea/3Slake=0.93 (実際のみくりが池では0.94)
すなわち、3m減圧点を3dとすると、
2438m(564(mmHg))のときは、3d=3(m)×0.93=2.79≒2.8(m) (実際のみくりが池では2.82≒2.8(m))
となります。
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