海流の発生

 海流をおこす原因は、おもに海上の風の応力です。風によっておこされるものを吹走流(風成海流)といいます。海流の発生や還流(海洋の大循環)は、大気の還流を参考にすると分かりやすいと思います。

 一般に広い海面で風が吹くと、風が海面に及ぼす応力のため海面から100メートルぐらいの深さまでの海水は、北半球では風に対して直角の右側に輸送されます。そのため、北半球で風が時計回りに吹いていると、表層の軽い水は大気の環流の中心に向かい堆積します。海面はわずかではあるが盛り上がり、大気の環流の中心にたまった軽い水塊は深いところまで占める形となります。この結果、海中の圧力は風の環流の中心で高く、外側に行くほど低くなる。そしてここに圧力傾度力が生じます。気象でいう高気圧が環流の中心付近にできたといえます。

 一方、地球は自転しているため、見かけ上の力である転向力(コリオリの力)が生じています。転向力は北半球においては運動に対し直角右向きに働きます。

 海水はこのような圧力傾度力と転向力とがつり合うため、北半球では高圧部を右に見るように運動し、北半球の大洋では風の環流を中心にした時計回り、南半球では反時計回りに環流が生じます。

 水平圧力傾度(大気では水平気圧傾度)とコリオリの力が、釣り合っているような流れを、地衡流(大気では地衡風)といいます。自転する地球上の大気や海水の大規模な運動のほとんどがこの地衡流のバランスの下にあります。

 地球上の風系をみても、高緯度に偏西風、低緯度に北半球は北東、南半球は南西の貿易風があり、風系の分布と大洋の環流系とを見比べると、風が海流の生成に大きな力をもっています。

 また、大気還流と同様に、海水の太陽熱による低緯度地域での加熱、高緯度地域での冷却も大きな原因のひとつです。このため、一般に赤道地方から極のほうへは暖流が、極地方から赤道へは寒流が流れます。

 海流をおこす直接原因は、このように風の応力と海水の加熱・冷却によるが、海洋にはこのほか、海氷の生成・溶解、海面からの蒸発、降水などの物理現象・過程があり、海流はこうした要素が複雑に絡み合っておこっています。

 大洋における実際の海流をみると、大洋の西岸に位置する海流の流れは幅が狭くて強く、東岸では流れが広がり、また弱くなっています。この現象を西岸強化といい、強化された流れを西岸境界流といいます。西岸境界流には北太平洋の黒潮、南太平洋の東オーストラリア海流、北大西洋のガルフストリーム、南大西洋のブラジル海流などがあります。
 西岸強化の現象は、海流をさえぎる陸地の影響と、地球の自転の効果が緯度により異なるためにおこります。

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