コンパスの歴史

 コンパスの語源はラテン語のcompassusで、comは「円」を、passusは「くぎり」を表し、「円を方位に分割する」という意味である。


 磁気コンパスは、散見される記録によると、11世紀の初めに中国でつくられ、12世紀の終わりごろにはヨーロッパに伝えられていたらしい。初期のコンパスは、針を磁石でこすって磁化させ、この針を紐(ひも)で吊(つ)るしたり、針を藁(わら)に刺して水に浮かべたりして北を検知したものと思われる。


13世紀に入るとコンパスはかなり発達し、方位の目盛りもできてきたようであるが、コンパスとしてのいちおうの形をなしたのは14世紀に入ってからである。イタリア人ジョヤFlavio Giojaが1300年ころに、磁針と方位を書いたカードを一体にしたコンパスをつくり、持ち運びが可能になったといわれる。さらにイタリア人カルダーノGirolamo Cardano(1501―76)がジンバルリング(遊動環)を発明し、船が揺れてもコンパスは水平を保つようになり、コンパスとして完成された。


 今日のような精度の高いものになったのは19世紀後半で、1893年にイギリスの物理学者ウィリアム・トムソン(後のケルビン卿(きょう))によってつくられた。彼は、鉄船のもつ磁気によって生ずる磁気コンパスの誤差、すなわち自差の研究をして自差修正装置を完成させ、現在の磁気コンパスの原型となるものをつくりあげた。トムソンのつくったコンパスは、カード全体を支針の先端で支える乾式コンパスdry compassだったが、さらに船の振動に耐えるため、カードを液の中で支える液体コンパスliquid compassに改良された。

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