はじめに

 ダイビングを安全に楽しむためには、心構えが必要です。
 左図で説明します。

 y:安全潜水の範囲
 a:ダイビングに対する姿勢(精神)
 x:身体状況(変数)
 b:潜水技術
 :潜水に関する知識
 とすると、安全潜水の範囲yは、
 
 で表すことができます。

 この式は、潜水行為すべてにおける普遍的な概念を表したものです。(N.Sugiuchi)

 aはダイビングに向ける心とか安全を希求する気持ちや謙虚さなどで、個人の内面にある気質です。
 は、例えば1を年齢による身体要因、2を体力、3を体調などとすると、
 xは(x1+x2+x3・・・)の集合で、適時、自分の身体状況(いいときもあるし、わるい時もある)を斟酌して臨まなければならない、ということです。
 (b+c)は技術と知識が、一体となった総合的技量です。

 安全潜水の範囲を広げるには、a、x、b、cをそれぞれ高めていくことが肝要です。
 そうすれば、あなたの安全潜水の範囲は広がり、楽しみも倍増することでしょう。
 自然に遊ぶスノーケリングやダイビングですから、この安全範囲というものを、しっかり認識しておいてください。

 また、精神的・肉体的に潜水に不向きな人もいます。受講する前に潜水に向いているか、いないか、医師の診断を受けることが推奨されています。
 
 この編は、ダイビングを始めようとしている方に読んでいただきたいものです
 のっけから数式なんか出して、「なーに、これ?、ダイビングってこんなにめんどくさいものなの」と思われたかも知れません。
 水を差すようですが、ダイビングは安全な行為とは決していえません。
 なぜならば、陸上で、大気圏内で、しか生きることができない人間が、水中深く入っていくのですから。

 夏になると海や湖や川で溺れて命を落とす人が多くいます。つまり水は、人の命を簡単に奪います。

 人が海に潜る願望は紀元前からあり、その後さまざまな科学法則などが発見され、それに伴っていろいろな潜水器が作られ現在にいたっています。有に三千年をかけて一般の人が利用できる潜水器(SCUBA)が作られたのです。これからみても潜水は如何に困難であったことが分かりますし、経過において多くの危険もあったのです。

 現在では、SCUBAとその周辺器具は発達して、より多くの人が海中を訪れる機会を得ましたが、海の自然条件は変わっていません。いくら器具や道具がよくなったといっても、潜水の危険がなくなったとは言えないのです。
 冒頭の数式は安全潜水を希求したもので、十分理解した上でダイビングに臨むようにしてください。 
 

 この講座は、あなた自身が行おうとするダイビングにおいて、あなた自身の判断で安全にダイビングできることを目指しています。つまりガイドがいてもいなくても、自分の安全は自ら守るということです。
 ですから、習う前にある程度のダイビングに関する知識を得ておいてほしいのです。

  • 水中に入ると→人体には水圧が加わり、深く潜れば潜るほど身体のかかる圧力は増し、高い圧力下では直接的に間接的にさまざまな生理的作用を受けます。

  • また、水の性質によって→視覚、聴覚、触覚、臭覚、味覚、いわゆる五感が全く異なってきます。身体運動は歩く動作が、泳ぐ動作に変わります。

  • そして→たくさんの用具や器材を使います。

  • さらに→波や潮流や水温や危険な生物やポイントの状況など、海や湖の現象にも配慮しなくてはなりません。

などなどです。 初めてダイビングを習う人でも潜って習うわけですから、このような水の物理的性質や海の自然現象から離れて習うことは不可能です。スキーのように、ちょっとゆるい斜面から、というわけにはいかないのです。

 日本には潜水士免許という国家試験があります。水中作業などに従事する職業潜水士、通称プロの世界ではこの免許を持っていないと、潜水を習うことができないのです。なぜなら、プロの世界では潜水を習うこと自体が潜水業務となるからです。
 この潜水士免許試験は学科試験だけですが、その理由は、「陸上とは違う水中のさまざまな現象を知ってから習う」という考え方に基づいています。

 マリンスポーツとしてのダイビングを楽しむ人には、潜水士免許は必要ありません。その理由は、スポーツやレジャーは自己の責任下で行われるものだからです。しかし、マリンスポーツやレジャーでのダイビングを習う人にとっても、潜水士免許の考え方は大切です。実技実習前に、ダイビングに関する充分な知識を得ておくことは、実技実習の安全を高め、技術習得を円滑にし、確かにすることができます。 

 

 一口に知識といってもけっこう量があります。学科講習の参考書として活用していただければと思っています。
 この講座は、余分と思われることまで書いています。でも知識として頭のどこかに置いておけば、ダイビングの楽しさが倍増すると思うからです。

 この講座は、目次の順番に読んでいただきたいと思っています。
                                          杉内信夫)