潮流

【潮汐】
 潮流が起きる前提として潮汐(潮の満ち引き・干満)現象があります。潮汐はおもに月や太陽の引力によって生じる海面の上昇・下降現象で、半日(約12時間)・半月(約15日)・半年(約6ヵ月)の段階の周期があります。このように月や太陽が地球の海面を上げたり下げたりする力を起潮力といいます。

 潮汐は水・海を意味するサンズイに朝と夕と書くように、満潮(高潮(こうちょう))と干潮(低潮(ていちょう))は、1日にほぼ2回ずつ起こるのが通例で、1日1回の地球の自転と27.3日の月の公転(月齢)によって、満潮から満潮・干潮から干潮までの平均時間は12時間25分で、その時刻は毎日数十分づつ遅れます。

 満潮の高さや干潮の低さ(潮位)はそのつど異なり、これを日潮不等といいます。極端な場合は、満潮と干潮が1日1回しか現われず、一回潮となることがあります。メキシコ湾やマニラ湾などでは、日潮不等が著しく、大部分1日1回しか干満が生じません。国内ではオホーツク海、瀬戸内海東部で日潮不等が大きく、1回潮になることも珍しくありません。

 潮差(干満の差)は、ふつう新月(朔(さく))や満月(望(ぼう))の頃が大きく、上弦や下弦の頃に小さくなります。新月や満月の潮を大潮、上弦や下弦の潮を小潮といいます。また、春秋の彼岸の頃に年間で最大となり、これを彼岸潮といっています。

 世界でもっとも潮汐が大きい所はカナダ南東部のファンディー湾の奥で、大潮差が15メートル(平均)にも達します。イングランド西岸、フランス北西岸、マゼラン海峡、朝鮮半島西岸などでも10メートル前後に達するところがあります。
 
潮汐による上げ潮・引き潮は海面との落差の少ない大河にも影響し、有名なアマゾン河の大逆流などの現象をみせます。中国の銭塘江・イギリスのセバーン川も、この現象が見られるところです。この現象をタイダルボア、単にボアといいます。

【各地の潮汐】

  潮汐は水面が上がったり下がったりすることですから、盛り上がるところには周辺から水が集まり、下がるときは周辺へ水が散るので流れが起きます。これが潮流で、狭い水路や湾・入り江などでは干満の差や流速も大きくなります。

 日本沿岸では、関東以北の太平洋岸で大潮差が1〜1.5メートル程度、東海地方から九州・南西諸島にかけては1.5〜2メートル程度で、東京湾や伊勢湾などの湾内ではやや大ききなります。
 瀬戸内海は複雑で、中西部では3メートル前後になるが、明石海峡付近では1メートル程度です。九州西岸は2.5〜4メートルと大きく、特に有明海は日本最大で湾奥では5メートル以上に達します。
 一方、日本海沿岸では20〜50センチメートルと小さくなります。

【潮汐の予報】

 明日の潮汐予報は、新聞にも載っていますが、長期的な各地の予測は、潮汐表(海上保安庁)、潮位表(気象庁)は毎年発行されています。これらの本で満潮・干潮の時刻とその潮位がわかりますが、特定地点の情報まではわかりません。

 

潮流

 海流が大洋規模のほぼ一定の通年現象であるのに対して、潮流は潮汐が元となって起きる狭域での日周現象です。
 潮流の向きや速さは地形によって異なり、高潮・低潮時から転流までの時間も場所によって異なります。流速はふつう大潮の頃に速くなり、小潮の頃に遅くなります。流速は海面近くが最も速く、海底に近いほど遅くなります。満潮時・干潮時には流れがゆるやかになり、これを潮どまりといっていますが、この時間に潜れば潮流の影響は受けず安心です。まさに潮時を見て活動するということになります。

 潮流は、海岸地形や岩礁帯やサンゴ礁帯(リーフ)などのところでは複雑な流れ方をしています。またダイバーが受ける潮の流れは、潮汐によるものだけでなく、波・風・海流の接近などによって種々様相が違います。つまり、その地その時によって違うので、やはり子鯨時代はインストラクターやガイドや上級者とともに潜り、ひとつひとつ体得していくのが大切です。

 

[リップカレント]

 潮流は、狭い水路や細長い入江などでは速度を増します。リップは唇のことです。口笛を吹くときを連想してください。すぼめた口から空気は勢いよく出ています。岩礁と岩礁との間、サンゴ礁とサンゴ礁との間には、狭められて速くなった潮の流れが発生しています。これをリップカレント(狭流)といいます。

 特に、サンゴ礁に囲まれている南の島では、サンゴ礁の切れ間でラグーン(礁湖)から外海へ出ている流れがあります。リーフで砕ける波がラグーンに飛びこみ、それが出ていっています。ラグーンのスノーケリングにしても、海中の景観に見惚れて、ついついサンゴ礁の切れ間に近づいていることもあるので、自分のいるところを確かめながら行動するようにしてください。  

 

[ロングショアーカレント(沿岸流)]

 連続的に波が寄せている海岸では、海岸地形に沿って潮流が発生します。これをロングショアーカレント(沿岸流)といい、リップカレントに比べて長いを比較的ゆっくり距離を流れます。また本州南岸では、黒潮が接近した時期に沿岸部で顕著に発生します。岬などの突端では、流れが岬にぶつかりリップカレント状の流れを呈していることもあります。地形や時期を勘案して、スノーケリングやダイビングの活動海域をあらかじめ決めておいたり、潮の流れを感じたならその海域から離れたりすることが大切です。

 リップカレントやロングショアカレントのようなローカルな潮のことは、地元の漁師さんやガイドさんなどがよく知っていますから、ざっくばらんに聞いて教えてもらうのがいちばんです。

 

[吹送流]

 波の項にありましたが、風によって潮が流れます。貿易風や編成風による大規模な海流ばかりでなく、離岸風のような局地的な風によっても潮流は発生します。スノーケリングやダイビングは、吹送流の影響が大きく、何時の間にか沖へ出されていることもあります。風のある海域では、常に陸地やボートを見て、自分の位置を確かめていることが大切です。

 
[潮流に乗ってしまったら]

 海は自然ですから、すべてを知った上で、海に入ったり潜ったりすることはできません。どちらかというと、海に入ってから、潜ってから、「潮が流れている」、「冷たい」、「透明度が悪い」など、「自分にとって、どうなのか」が分かるものです。ですから、臨機応変の対応が必要になります。予期なく潮流にも乗ってしまうこともままあります。潮流に乗ってしまったら、あるいは乗ってしまうかもしれない、ということも考えておくことが大事です。
 

1.

泳ぎきれない潮流は、逆らっても疲れるだけです。潮流から抜けることが肝心なので、原則として流れに直角に泳ぎ潮流から抜け出ます。

2.

リップカレントは、それほど遠くまで流れず途中で弱まり、無くなってしまうこともままあるので、落ち着いて潮の判断をして、次を考えます。

3.

潮流が予想される海域では、スノーケリング・スキンダイビング・スクーバダイビングに関わらず、浮力を得られるもの、笛、シグナルミラーやシグナルフロート(※)を携行するようにします。

 (※)

浮力が
得られるもの

ウエットスーツを着用していれば、ウエートを捨てれば充分な浮力を得られます。
ウエットスーツを着用しないスノーケリングでは、救命胴衣を着けたり浮き輪を持っていったりすればより安心です。

音で救難を求めます。

シグナルミラー

太陽光を反射させて救難を求める鏡です。

シグナルフロート

空気を入れると、1.2mくらい細長く膨らんで救難を求めるフロートです。

 
 
[スクーバダイバーが出会う潮流]

 海面の表層付近といっても、水深15mとか20mとか厚さがありますが、それを過ぎると嘘のように潮の流れが止まっているときがあります。
 まれですが、海中では流れの向きが違う潮流に出会うこともあります。
 海岸から海中への地形の傾斜によっては、その傾斜にそって引きこむような潮の流れに合うこともあります。
 このように、潜ってはじめて感じる流れもあるのです。

 スクーバダイビングでは、潮の流れを積極的に利用した潜り方もありますが、それはボートダイビングの項にゆずります。

 

【ざつがく事典】

 魚の餌(えさ)となるプランクトンが潮流で流されるために、潮時によって魚が釣れたり釣れなかったりします。流れがほとんど停止する満潮・干潮には、魚があまり釣れません。貝類の採取には干潮時がよく、潮干狩は全国各地で春の大潮の干潮時に行われていますが、日潮不等で日中の干潮がよく引くことなどの理由によるものです。ちなみに秋の大潮は、太平洋岸では夜の干潮がよく引きます。

 海水の干満は、とくに漁業や航海に携わる人々にとっては重大な関心事でありますが、ダイバーもこれらに人々の使う言葉など知っておくと、漁師さんや現地の人たちとの会話もはずみ、海行きで別の楽しみも増します。

 干満の呼び方には、満潮をタタエ、トドエ、干潮をソコリ、ヒオチ、といったり、干満の止まった状態をタルミ、トロミなどというところが多いようです。

 干満に伴う潮流については、陸から沖へ行く潮を出潮(でしお)、沖から陸へ向かうのを入潮(いりしお)という地方が多く、この流れは船の出入港に利用されています。
 伊豆半島には入潮をオカヅケとよぶ所があるが、これは明らかに操船にちなむ名です。相模湾では出潮をハライダシ、タジマジオ、入潮をコミシオ、ツケシオというほか、東流の潮をカシマ(鹿島)、西流の潮をワシオとよんでいます。また、潮の流れなどによる潮境にはシオザイ、シオメ、サエジオなどの呼び方があります。

 潮汐については多くの俗信もあります。
 人は満潮時に生まれ、干潮時に死ぬという伝承は各地にありますが、ほかに家の棟上げ式や船に船霊(ふなだま)を祀(まつ)り込んだり、船下(ふなお)ろし(進水式)は満潮時に行いまさす。
 満潮時におこった火事は大きくなる、満潮のときのけがは出血が多いなどいろいろあります。これら潮汐についての伝承のなかには単なる干満からの連想だけの俗信もありますが、一方には人間の生理現象に関することばに血潮、初潮などがあることからすれば、血液、生命と潮との間には、深い関係があると考えられていたともいえるでしょう。(C)小学館