タンク

【スクーバタンクに詰まっている空気は高圧ガスです】

 いま使われているタンクには、200kg/cm2(ゲージ圧力)の空気が詰まっています。何と大気圧の200倍もの圧力です。このように高い圧力の気体(ガス)は、「高圧ガス保安法」という法律によって規制を受けてます。

 高圧ガス保安法では、「常用の温度または温度35℃で、ゲージ圧力1メガパスカル(約10kg/cm2)以上となる圧縮ガス」を高圧ガスと定めています。

 タンクに空気をつめる、すなわち圧縮ガスを製造する、また圧縮ガスを販売する者は、都道府県知事の許可を受けなければなりません。
 また、タンクを所有するものは、、1989年3月以前に製造されたタンクは3年毎、1989年4月以降に製造されたタンクは5年毎にタンクおよび附属品(バルブ)は、耐圧試験(自動車の車検のような定期検査)を受けなければなりません。

 そしてタンク(容器)は、使用するガスが決まっているので、他のガスは入れられません(注1)。スクーバタンクに限らず高圧容器には、その容器の身分を示すためにタンクの肩部には、

@

 番号(そのタンク固有のもの)

A

 使用ガス(空気だったら、クウキとかAIR)

B

 製造年月および耐圧試験年月

C

 内容積値(V)

D

 重量値(W)

E

 使用圧力(FP)

F

 耐圧試験圧力(TP)

G

 製造メーカーのマークおよび耐圧試験場のマーク

H

 所有者コード(注2)

が刻印してあります。アルミタンクには、このほかにアルミ合金コードが打たれています。

 スクーバタンクには、とても高い圧力の空気が詰まっていますから、その取り扱いには注意をはらってください。

(注1)

タンクに空気を入れることを、充てんとかチャージとか、いいます。

(注2)

個人で所有者コードを取得するのはたいへんなので、個人のタンクはダイビングショップなど大量にタンクを持つ事業者などのコードを借ります。

 

【タンクの種類】

 スクーバのタンクには、スチール製とアルミ製があります。スチール製のタンクは、そのほとんどが国内で製造されたものです。一方、アルミ製タンクはほとんどが海外から輸入されたものです。

現在日本国内では、地域的な違いはありますが普及しているタンクのうち、ほとんどがスチールタンクです。ダイビングスポットでダイバーに供給されるタンクは、10リットルのタンクが多いようです。

材質

内容積
(g)

重量
(kg)

高さ
(mm)


(mm)

スチール
(旭製作所製)

 8

約11.0

430

188.7

10

約13.3

505

188.7

12

約15.0

585

188.7

14

約16.8

665

188.7

アルミ

10

約14.0

622

185.0

11

約15.0

678

185.0

 

【バルブ】

 タンクには、空気を出したり、止めたりする栓がついています。バルブといいます。多くはKバルブといって、単に空気を出したり止めたりするタイプです。材質は、真ちゅう(黄銅:brass)で、クロムメッキがほどこされています。バルブ本体の外観でいうと、次の部分で構成されています。

@

タンクと連結するネジ部(タンクとバルブの間には、Oリングが入る)

A

レギュレーターを取りつけるバルブヘッド部

B

栓を開閉するバルブコック

C

タンク内圧力が極端に上昇したとき、タンク内の空気を逃がすための安全弁

D

万が一タンク内部に錆びが出たり、異物が入ったりしたとき、それらの細かい錆や粉塵がレギュレーターに行かないようにするサイフォン管

  タンクとバルブの接続は、メーカーやタンク検査場で行ないますので、よほどのことでもない限り(注3)、一般ユーザーがバルブを付けたり外したりすることはありません。

 スクーバタンクの使用には、次のことに留意してください。

 バルブヘッドには、空気孔があり、ここにレギュレーターを取りつけるのですが、空気孔のまわりの溝にOリングというパッキンが付けてあります。このOリングがないと、レギュレーターを付けても空気が漏ってしまい、タンクもレギュレーターも役にたちません。Oリングは、小さなゴムの輪っかですが大切なものなので確認を怠らないようにしてください。

 バルブは外からの力によって損傷を受けやすいところです。特に、バルブコックに連結される軸は曲がりやすいので、タンクは転倒させないようにしてください。タンクにレギュレーターやBCを付けて準備ができたら、寝かしておくようにします。
 また、ダイビング中に、バルブコックが岩などにあたると、軸や開閉ディスクを損傷しますので、バルブコックを全開してから、1回転くらい戻してください。あらかじめ、バルブの動きに余裕を持たせることによって、軸や開閉ディスクの損傷を防ぎます。

ここで、ご注意!
 タンクにレギュレーターやBCを付けタンクの圧力も確認しました。しかし、ここからダイビングまで時間があるとき、何かの拍子でレギュレーターのパージボタンやBCの吸気ボタンが押されていると、タンクの空気は大気中に逃げていってしまいます。そのためにバルブを再び閉めますが、このバルブを閉めたのを忘れてダイビングすると、来るはずの空気が来ない、それによってパニックにおちいり命を落とす人もいます。事故原因としては多いほうですから、背負う前に必ずバルブが開いているかの確認を怠らないようのしてください。

 また、バルブは全開してから1回転ほど戻しますが、戻しすぎると空気の出が悪くなります。空気を吸ったとき残圧計の針が下がり、しばらくすると残圧値を指すといった針の振れがあるときは、バルブがちゃんと開いていません。やはり、タンク圧力チェックはパージボタンだけによらず、吸ってみたほうが確かです。

(注3)

例えば、僻地でダイビングするなど、飛行機で輸送する場合にはタンクとバルブを外すことがあります。

 

【タンクの容積と重さの関係】

 スクーバタンクの種類の表をもう一度よく見てください。タンクの容積(V)と重さ(W)がたいへん近い値に作られています。タンクには厚みがあるので、タンクの風袋つまり体積は、容積よりも大きくなります。

 タンクの金属材料の体積は、重量を材質の比重で割ることによって求められます。鉄の比重7.86、アルミの比重2.7ですから、

 例えば、容積V=10.2リットル、重量W=12.6kgのスチールタンクなら、金属材料の体積(バルブは無視)は、

   12.6/7.86=1.6(リットル)

となり、これに容積を加えればタンクの体積が求められます。したがって、このタンクの体積は、

   1.6+10,2=11.8(リットル)

で、体積と重さの値はもっと近くなります。タンクは、水に入ったとき、その体積と同じ水の重さの浮力を受けますから、水の中ではタンクの重さと浮力がほぼ釣り合うので、水中ではダイバーはタンクの重さを感じません。 

 

【タンクの空気量と空気の重さ】

 タンクに入っている空気量は、大気圧下に解放したときの体積で、タンクの内容積(V)と充てん圧力(FP)を掛けた値となります。例えば、10リットルのタンクに200気圧の空気が充てんされていれば、

 タンクの内容積(V)×充てん圧力(FP)=10×200=2,000リットルとなります。

また、空気の重さは、1モルは22.4リットルの体積を占め、その重さは29グラムですから、2,000リットルの空気は、

 2,000/22.4=89.29モル

 つまり、このタンクの空気の重さは、

 29グラム×89.20モル=2,589グラム≒2.6キログラム

となります。

 ここでダイバーとして留意しておくことがあります。潜っているとタンクの空気は、どんどん減ってきます。それによって空気の重さも減っていき、タンクは相対的に大きい浮力を受けます。つまり浮力の変動がおこります。その結果、ダイバーは浮き気味になります。この現象は、比重の違いでアルミタンクの方が顕著に現われます。

 

【タンク使用上の注意】

 気体の性質として、もうひとつの大事ことがあります。
 気体の圧力(体積一定のとき)は、絶対温度(273+℃)に比例する、というものです。

 タンクが熱を受けると、中の空気の圧力は上昇しタンクに負荷をかけます。圧力上昇によるタンクの破裂を防ぐために、バルブに安全弁が付いています。安全弁はヒューズメタル方式(注4)で、110〜120℃、32.3メガパスカル(333kg/cm2)の圧力で作動します。火災などに遭わない限り、この温度になることはありませんが、直射日光に当ってっぱなしにしたり、自動車のトランクに入れっぱなしにすることは、極力さけてください。

 タンクの保管上タンクの圧力は10kg/cm2くらい残しておきます。タンクの空気を完全になくすと、バルブを開いたときに水分の高い外気をタンクが吸いこむことがあります。この水分によってタンク内部に錆が発生しやすくなります。

 タンクの使用後は、よく水洗いしてください。表面に強力なメッキがされていても海水で使っているので、スチールタンクは錆るものです。アルミタンクは、バルブ接続部が電気化学作用で腐食(注)しやすく、電解水の海水が残っていると腐食をさらに誘発しやくなります。

 今では個人でタンクを持つ人は少なく、ほとんどがレンタルタンクを利用しています。そのためタンクの管理はダイビングサービスの仕事になっていますが、やはりマナーとして水洗いはして返したいものです。

(注4)

弁ボルトの中心の穴を貫通させ、その中に鉛合金を詰めてあります。熱が加わるとその合金が溶けて空気を逃がします。

(注5)

電食といいます。異なる金属が接すると電流が発生し、それによって金属が腐食する現象。

 

【ウエート量は条件で変わる】

 昔むかし、まだBCDがなかった時代は、ダイバーはウエートの量に相当気を使いました。深く行けばいくほど圧力によってウエットスーツの体積は減少し、それに伴なって浮力を減少します。ですから、目標とする深度を勘案してウエートの量を決めました。

 水中では唯一の浮力調整の手段として呼吸量を加減しながら潜ったものです。BCDの出現によっていとも簡単に浮力調整ができるようになりましたが、潜りやすくするためにウエートを過剰気味にする傾向がありますが、これは間違いで適正なウエートで潜ることが大切です。

 ウエートの量を変える要素としては、タンクがスチールかアルミかで変わってきます。タンクの空気は10リットル200kg/cm2タンクで2.6kgありますから、潜水時間とともにこの重さは減りタンクは浮力を得てきますから、このようなことも考えてウエート量を決めます。

 また、ウエットスーツの使用経年変化で薄くなったり、ダイビング経験も長くなると呼吸法も安定したりしてくると、ウエート量はじょじょに減る傾向になります。

 ウエートは多すぎても少なすぎても、快適なダイビングは得られません。計算上のことばかりでなく、以上の条件などを体得して、そのときの自分の適性なウエートでダイビングするように心がけてください。

 むろん、海水潜水か淡水潜水か、ウエットスーツかドライスーツという大きな条件も忘れないようにしてください。

 

【ざつがく事典】

 潜水の眼目は、如何に空気を水中に持ち込むかでした。

 水中で、長い時間、自由に泳ぐ。戦いにしろ、糧を得るにしろ、これは人類共通の夢だったにちがいありません。紀元前アレキサンダー大王が、その戦いで潜水艦らしきものを使ったといわれます。また、アッシリア(イラク)の遺跡には、革袋に詰めた空気を吸って敵を攻撃している様子のレリーフが残されています。

 現代になって、やっとこの夢がかなうことになります。そのきっかけは、ドイツのオットー・フォン・ゲーリケが真空ポンプ(空気圧縮機、コンプレッサー)を発明したことです。この発明によって、送気式にしろ、自給式にしろ、人間は水中で呼吸することが可能になりました。つまり、呼吸をすることにおいて水圧に打ち勝ったのです。むろん、呼吸するための装置(レギュレーター)の発明や開発が同時に進められ今日にいたっています。

 科学技術の進歩により、タンクや呼吸装置の材質・性能ともに向上し、スクーバは、水中という領域まで人間活動の範囲を広げました。多くの人々のレジャーやスポーツとして、そして文化活動として行動できる時代になりました。