スノーケルでの呼吸

肺は、身体に必要な酸素(O2)を取入れ、代謝によってできた二酸化炭素(炭酸ガス・CO2)を排出する器官です。この酸素と二酸化炭素の交換をガス交換といい、肺胞といわれるところで行なわれます。

 肺胞までの空気の通り道、つまり鼻腔や口腔から咽頭、喉頭、気管を通って気管支さらに細かく枝状に分かれた気管支までを気道といいいます。

 気道はガス交換に直接関かかわっていませんので呼吸死腔ともいいます。年齢や体格などによって異なりますが、人の平均的な呼吸死腔は180ml(ミリリットル)位です。

 スノーケルを使うことは、この呼吸死腔を物理的に増やすことになります。ちなみにマスクをかけたときマスク内空間も呼吸死腔となります。形状や大きさによって異なりますが、スノーケルは約150ml、マスクは230ml位の呼吸死腔を作りだし、両者を合わせた全体の呼吸死腔は約3倍にもなります。

 

 さて、ここからが大切なところです。

 呼吸動作は外からの刺激や精神的な原因で最も影響を受けやすいもので、びっくりさせられたり、何か不安があったりすると、呼吸がとまったり速くなったりすることは、誰もが経験のあることだと思います。

 速い呼吸は、酸素がたっぷりの新鮮な空気を吸っても肺胞に届く前に、吐いてしまうことになってしまいます。スノーケルをくわえただけで、その違和感で速く浅い呼吸になる人がいますが、それは呼吸死腔内の空気を行ったり来たりさせているだけで充分な入れ換え(換気)ができず、体内に二酸化炭素の蓄積を増大させることになってしまいます。

 しかしこのようなことは、呼吸の仕方で簡単に防ぐことができるのです。

 呼吸は文字通り「吐いて」から「吸う」ことで、「しっかり吐いて」から「吸う」ことに心掛けてください。呼吸のうち、吸息は呼吸筋の引張り作用によって肺を広げ空気を入れ、呼息は引張られた呼吸筋がバネのように元に戻る作用によって行なわれていますが、この作用だけでなくちょっと意識的に吐くことで、呼吸死腔内の空気を充分に換気することができます。

 スノーケル呼吸は、「速く浅い呼吸」でなく「ゆっくり深い呼吸」が基本です。これはスクーバでの呼吸にも通じます。

 むろん何らかの原因(急いで泳ぐことになったなど)で運動量が大きくなった場合は、必然的に呼吸回数も増えますが、このときも「吸う」ばかりでなく、「意識的に吐いて、吸う」ようにしてください。
 初心者の方に多く見られる傾向ですが、「吸ってばかり」いて、そのうち苦しくなってスノーケルをはずしてしまう人がいます。スノーケルをはずしたら、スノーケルの利点は生かされません。

 もうひとつ、スノーケルの呼吸で大切なことがあります。マスクを着けると鼻は封じられるので、鼻からは息を吸うことはできません。しかし、鼻から出すことはできます。スノーケルやスクーバでの呼吸は、「口から吸って、口から出す」ですが、「口から吸って、鼻から出す」ことも入念に練習し、その切替もスムーズにできるようになってください。これをマスクブローといいます。

 

 よく言われていることですが、すべてのスポーツや運動の上手下手は呼吸にあります。ゆめゆめスノーケル呼吸の練習は怠らないようにしてください。

 スノーケルは水面で呼吸するただの管ですから、水中に潜れば管の中に水が入って呼吸はできません。水面活動のスノーケリングでも、首を傾けたり、極端に真下を見ようとしたりすると水が入ってきます。そのときはあわてずに、肺の空気を強くスノーケルの中に吐いてください。その勢いで水は管の先端から吹き出されます。この動作をスノーケルクリアーまたはパイプクリアー といいます。スノーケルクリアーをやりやすくするために排水弁のついたスノーケルもあり、今この排水弁付きのタイプが主流となっています。

 スノーケルの排水弁は、中の水は出せるが、外からは入らない、つまり逆止弁です。
 この弁に小さな石が挟まることがあります。こうなると水が入って呼吸はできません。排水弁付きのスノーケルを使う場合は、排水弁のところをよく見て、石などがはさまっていないか確かめてください。