脊椎動物門

【は虫綱】…………ウミヘビ

【軟骨魚綱】………アカエイ ホホジロザメ

【硬骨魚綱】………アイゴ ウツボ オニオコ ゼオニカサゴ オニダルマ オコゼ ゴンズイ テンジクダツ オキザヨリ ハオコゼ ミノカサゴ

 

危険な「は虫類」

【ウミヘビ類】(sea snake)

 薩南諸島以南のサンゴ礁域
 

 ウミヘビ類は、世界に約50種。種類によらず手を触れないことが大切だ。沖縄で食用にする「エラブウミヘビ」は、性格はおとなしいがハブの20倍という強い毒を持っている。「エラブウミヘビ」「アオマダラウミヘビ」「ヒロオウミヘビ」の3種は、岸に上がることがある。他のウミヘビは一生、海の中ですごす。「セグロウミヘビ」は、本州や北海道沖にまでやってくることがある。首の付け根が細い「クロガシラウミヘビ」も海流にのって四国や本州にやってくるが、性質が荒い。

 口が小さいため、実際にかまれて死亡する人は少ないが、コブラなどの毒蛇と同じ「神経毒」をもっている。かまれた人のうち、中毒症状が出る人は3割前後。症状は30〜90分後に現れるので、2時間たっても症状がなければ心配ない。ウミヘビの毒は、筋肉を侵す。まず、腕、足、胴、舌などの筋肉が痛くなり、口が開かなくなる。数時間後には、筋肉の破壊によりミオグロビン(注1)という物質が排泄され、尿が赤褐色になる。筋肉の硬直・脱力、しびれ感などの症状が出て呼吸停止に至る。

 シャツやタオルなどで咬まれた部分をきつく縛って毒の拡散を防ぐ。患者は動かさず、抗毒血清のある医療施設へ運ぶ。呼吸停止の場合は、心肺蘇生を行う。重症の場合、病院では人工呼吸器を使った全身管理を行う。

 

危険な「軟骨魚類」

【アカエイ】(アカエイ科)

 本州中部以南の浅海の砂場に多い。

−ヒラタエイ−

(H.Abe)

 

−シビレエイ−

(H.Abe)

 日本沿岸にアカエイ科のエイは10種類以上おり、すべて尾にトゲを持っている。漁獲対象魚なので、漁師はすぐにトゲのある尾を切断して水揚げする。腹面は白く、腹面の胸びれは黄色く縁取られている。尾の根元近くに、ノコギリ歯状の大きなトゲがあり、このトゲが有毒。体に触れると、すばやく尾を曲げ、トゲで相手を刺す。

 傷は鋭利な刃物で斬りつけられたように深く、毒液(タンパク質毒)を注入されるので、ひどい激痛が数時間続く。10分ほどで、刺すような痛みが加わる。傷口の周辺は腫れ、赤紫色に変色する。全身症状では、血圧降下、下痢、発汗などがみられる。重症例では、手足の切断や死亡もある。

 出血が多い場合には、まず圧迫止血を行う。刺し傷の場合は、40〜50度の湯に30〜90分間つけると痛みが和らぎ、毒を不活化できる。病院では傷口の洗浄やレントゲン検査などを受ける。


【ホホジロザメ】(ネズミザメ科、英名Man Eater Shark=人食いザメ)

 カリフォルニア沿岸、四国、オーストラリア南東部など世界の温帯、熱帯域。

 人間にとって最も危険なサメ。全長は8mに及ぶ。獲物にかみついた後、すぐに吐き出す習性がある。これは傷ついた獲物が出血して意識を失うのを待つため。水中で魚をモリで突いて持っていると、サメを引きつける結果になるので要注意。魚市場など、魚が捨てられる場所の近くでは泳がない方がいい。尿や血液はサメを引き寄せるので、水中で排尿したり、けがなどで出血したまま泳ぐのは危険。ただし、生理時に女性から排泄される血液は、溶血した血液なのでサメを引きつけないとされる。「シュモクザメ」(英名ハンマーヘッドシャーク)も、ユニークな姿をしているが、危険なサメとされる。

 襲われて裂傷を負うと、動脈の場合は出血が激しく、なかなか止血できない。

 軽い傷の場合は、包帯で強く巻けば止血できるが、大きな動脈の場合は出血個所を強く押さえて止血するしかない。受傷者はボートや岸など安全な場所に収容し、むやみに動かさないこと。

 
危険な「硬骨魚類」

ポイント】魚類などの生物毒の解熱方法

 オコゼ、ミノカサゴ、ゴンズイ、エイ、オニヒトデの毒は、タンパク質毒または不安定な高分子物質とみられており、50度前後の湯で無毒化できる。傷口を清水で洗い流し、我慢できる範囲で、できるだけ熱くした湯の中に傷の部分を30〜90分浸す。そして、鎮痛剤を投与する。アンモニアをつけるのは間違い。アンモニアは蜂やアブなどの「蟻酸」を中和するものだ。

 

【アイゴ】(アイゴ科)

 暖海域に種類が多い。

−アイゴ−

(H.Abe)

 浅海の岩礁近くにすむ。背びれ、腹びれなど、それぞれのドゲには全て毒腺がある。怒ったり、興奮すると、これら全てのトゲを張り出す

 刺されると疼痛が激しく、痛さのために意識を失うことがある。

 痛みを減らすには、傷の部分に0.5〜2%のプロカイン(注2)を用いる。小切開し、毒を吸引して洗浄する。二次感染を防ぐために、抗生物質を使用する。

 
【ウツボ】【ウツボ科】

 本州中部以南に分布 

−ウツボ−

(H.Abe)

 夜間によく活動する。毒は全くないが、一般に性質は荒っぽく、こちらから刺激をやたらに加えないこと。口には、後方に倒れる犬歯が並ぶ。

 咬まれると出血することが多く、放置すると傷が化膿するおそれがある。

 傷口を洗浄し、消毒液で消毒する。医師の診察を受け、破傷風を防ぐ注射を打ってもらう。

 
【オニオコゼ】(オニオコゼ科)

 本州中部以南に分布。
 浅場から水深 200mまでの海底にすみ、砂地に潜っている。背びれには十数本の毒トゲがある。
 背びれのトゲは鋭く、その根元に毒腺がある。刺されると、激しくうずくような痛みに襲われる。
 痛みを減らすには、傷の部分に0.5〜2%のプロカインを用いる。小切開し、毒を吸引して洗浄する。二次感染を防ぐために、抗生物質を使用する。
オニカサゴ】(フサカサゴ科)

 本州中部以南、インド洋。

 

−オニカサゴ−

(H.Abe)

 岩礁地帯にすむ。頭やあごなどに小さな皮弁がたくさんある。背びれ、腹びれ、胸びれなどに毒トゲがある。
 刺されると激痛にみまわれ、患部は赤紫色に腫れて熱をもつ。重症では呼吸困難や患部の壊死などを引き起こすこともある。
 患部よりも心臓に近い側をひもで縛って毒が回るのを防ぎ、病院に運ぶ。患部は湯につけると、痛みが和らぐ。
 
【オニダルマオコゼ】(オニオコゼ科、英名ストーンフィッシュ)

太平洋、インド洋、紅海。

 サンゴ礁域や岩礁域に多く生息する。砂に潜っていたり、岩に化けていたりするので、知らずに手をついたりして触れてしまい、刺されることがある。
 背びれは猛毒で、死亡例もある。刺されると激痛に襲われ、患部は赤紫色になって腫れあがる。嘔吐やめまい、重症の場合は四肢の麻痺や呼吸困難を引き起こすこともある。
 患部よりも心臓に近い側をひもで縛って毒が回るのを防ぎ、病院に運ぶ。患部は40〜50度の湯につけると、60〜80分で痛みが和らぐ。病院ではトゲが残っていないかどうかレントゲン検査を受け、抗生剤、破傷風トキソイドの注射を受ける。
 

【ゴンズイ】(ゴンズイ科)

 本州中部以南の太平洋、インド洋に分布。

−ゴンズイ−

(H.Abe)

 暖海性のナマズ目の魚。「背びれ」と「胸びれ」に毒トゲがある。ゴンズイの幼魚は「集合フェロモン(注3)」によって惹かれ合い、「ゴンズイ玉」をつくる。

 刺されるとすぐに疼痛が起き、激しい痛みは徐々に傷の周囲に広がる。やけどに似た痛みが48時間ほど続き、ひどく腫れる。傷の周辺が壊死した例もある。

 傷口をきれいに洗い、40〜50度のお湯に、痛みが和らぐまで(60〜90分間)つける。病院では、トゲが残っていないか必ずレントゲン検査を受け、抗生剤などの注射を打つ。

【テンジクダツ】(ダツ科) 、【オキザヨリ】(ダツ科)

 日本近海に生息し、暖海に多い。

 ダツ目の魚は一般に光に集まり、また空中にジャンプする性質をもつ。特に夜間は照明に突進することが多いので、ナイトダイビングの際には、水中ライトを身近に置いて水面を照らさないよう注意が必要。事故例では、夜間の潜水漁で水面に浮上した際に、ライトに突進されてしまったケースが多い。

突進されると、硬くて鋭い吻(ふん)が刺さって負傷する。水中メガネを割られて失明した例や、首筋に突き刺さって出血多量で死亡した例がある。

 魚の先端が、人体のどの部分に突き刺さっていても、決して抜き取らないこと。血管が損傷している場合、抜き取った瞬間に大出血となる可能性がある。突き刺さった頭の部分だけを残して切り離し、病院へ搬送する。呼吸が止まっている場合は、心肺蘇生が必要。

 

【ハオコゼ】(ハオコゼ科)

 岩手県以南に分布。

−ハオコゼ−

(H.Abe)

 小型の磯魚で、体長5〜7センチ。ひれは赤褐色で美しく、体側には暗黄色と茶褐色のまだら模様がある。動きは鈍く、海藻の中にすんでいる。背びれの14本のとげに毒がある。

 刺されると、チクッとする痛みを感じ、やがて疼痛が2〜3時間続く。傷の周囲は赤くなり、腫れや熱もみられる。

 傷口を小切開し、毒を吸い出してから洗浄する。重症の場合は医師の手当を受ける。

 
 

【ミノカサゴ】(フサカサゴ科)

 伊豆半島以南のインド洋、太平洋に分布。

−ミノカサゴ−

(H.Abe)

 「背びれ」と「胸びれ」に毒を持つ。ミノカサゴの仲間は暖海域に種類が多い。性質はおとなしく、人をあまり恐れないので、手づかみにして刺される。

 刺されるとズキズキする激痛が起き、痛みは数時間続く。刺し傷は紫色に変色、やがて赤い腫れとなって熱をもつ。壊疽(えそ)になることもある。全身症状としては、心障害、吐き気、関節痛などがみられ、死亡する場合もある。ミノカサゴの毒も、オニダルマオコゼやダルマオコゼと同類のタンパク毒で、熱に弱い。60度で2分間加熱するか、pH4以下にすると毒の活性が失われる。

 傷口をきれいに洗い、40〜50度のお湯に、痛みが和らぐまで(60〜90分間)つける。病院では、トゲが残っていないか必ずレントゲン検査を受け、抗生剤などの注射を打つ。



(注1)

ミオグロビン(Mb)は筋肉にあって、血液中のヘモグロビン(Hb)同様酸素を結合し運搬する蛋白です。クジラが哺乳類なのに長時間潜れるのは、ミオグロビンがよく発達しているからです。

(注2)

合成局所麻酔薬。

(注3)

集団をつくって生活する動物が、その集団の形成・維持のために体内で生産し分泌するフェロモン。同種の他個体を誘引する作用をもつ