レスキューアシスト

支援(アシスト)の事例 アシストより救助(レスキュー)に近い事例 ご注意 ダイバーとしての
心構え
水中での
アシスト
浮上後、水面での
アシスト
スキンダイビングで スクーバダイビングで

【ダイビングレスキューその1:支援(アシスト)の事例】

 溺水者を救助するという前に、まず自分もバディも溺れないようにすることはいうまでもありません。自分に何かあったときは、「セルフレスキューの手順」に従い沈着冷静に行動しますが、バディに何かあったときやバディの様子が変だったりするとき、適切な支援をすれば、バディをトラブルから回避させることができます。いうまでもなく、あわてずに沈着冷静に支援します。このバディへの支援のことを「アシスト」といいますが、ちょっと手を差し伸べるだけで、バディも落ち着きを取り戻し、ダイビングを続行したり、安全に浮上したりすることができます。

 様子が変、というダイバーは、自己制御ができなくなり追い詰められていく状態にあるかもしれません。そのためにパニックに陥ったり、パニックまでいかなくても突飛な行動を起こし、それが引き金となって溺れにつながるおそれもあるので、気が付いたら適切なアシストをすることが望ましいところです。このアシストも、ダイビングレスキューの一環とされています。

 比較的軽度のバディの様子が変、なときの一般的な事例を参考までにあげておきます(注1)

【水中でのアシスト】

バディの状態

考えられる原因

アシスト

留意点

呼吸が荒いあるいは速い。そのために排気が途切れなく連続的にでている。

 

フィンキックがぎこちない。

 

不自然なしぐさ。

移動速度が速すぎる

移動速度を落とすか、着底あるいは潜降ロープなどにつかまり休ませ呼吸を整えさせる。

これにおいても、「セルフレスキューの手順」が生かされます。要点としては深呼吸させると、落ち着きを取り戻す。

改善しないときは、コンタクト(相手を保持(注2)あるいは傍にいる)しながら浮上へと向かう。

疲労

着底あるいは潜降ロープなどにつかまり休ませ呼吸を整えさせる。

浮力の減少あるいは増加

BCの吸排気をし中性浮力を得るようにさせる、あるいはする。

精神的不安

着底あるいは潜降ロープなどにつかまり休ませ呼吸を整えさせ、合図やメモ板などによって、不安要素を取り除く。

水深25mより深いところでバディが、
 

合図への反応が遅い。

 

不自然なしぐさ。

 

集中力の欠如。

窒素酔い

相手を保持しながら、浅いところまで移動する。

一般的に窒素酔いは、浅いところまで移動すると消失する。

改善しないときは、コンタクト(相手を保持)しながら浮上へと向かう。

浮上後、水面でのアシスト】

バディの状態

考えられる原因

アシスト

留意点

正規な浮上にもかかわらず、
 

水面上に顔を上げようともがいている。

 

レギュレーターもスノーケルもくわえずに、水面上に顔を上げようともがいている。

疲労や何か不安があって、BCへの送気を忘れている。

単にBCへの送気を忘れている。

過剰ウエート。

BCに送気し、浮力を確保させる、あるいはする。

浮力が充分でないときは、ウエートをはずす。

浮力を確保し、声をかければ、落ち着きを取り戻すのが普通。落ち着きを取り戻したら、コンタクト(相手を保持あるいは傍にいる)しながら水面移動でエキジットポイントやボートに戻る。

改善しないときは、曳航するか他の応援を要請する。


(注1)

相手がエアー切れになったときは、アシスト、レスキューというよりダイバーが持つべき固有の基礎技術なので基礎編で詳しく述べましたので、ここでは割愛します。

(注2)

手をつなぐ程度のことも保持ということに含まれます。


 

【ダイビングレスキューその2:アシストより救助(レスキュー)に近い事例】

 溺れている人を助けるということは、溺れている人を発見し、救助に向かうといったライフセーバーの活動を思い起こしますが、ダイビングの場合は、その前の段階として水面下で溺れたあるいは溺れかかったダイバーを浮上させる要素が加わります。それは、バディのバディつまり自分が行わなければなりません。ここがダイバーとして特有な救助技術が求められるところです。その後、陸あるいはボートに収容するまでの、曳航・人口呼吸・救援要請などは通常のレスキュー活動と同様です(次項)。

 前述した支援(アシシト)で、事がおさまらない場合、つまりダイバー(バディ等)が、もっと危険な行動を起こしたり、状況になったりしたときの事例を参考までにあげておきます。これはアシストより困難を伴いますので、確かなダイビング技術と、二重遭難にならないように救助者の沈着冷静な対応が要求されます。

【スキンダイビングで】

ダイバーの状態

考えられる原因

レスキュー

留意点

浮上してきたダイバーが水面近くで失神(ブラックアウト)する。

酸素欠乏
(アノキシア)

ダイバーを沈降させないように捉え、水面で急速換気(人工呼吸:マウスツーマウス)をする。

急速換気で改善しないときは、人工呼吸を施しながら、水面移動でエキジットポイントやボートに曳航する。

【スクーバダイビングで】

ダイバーの状態

考えられる原因

レスキュー

留意点

潜降開始直後、
 

急激な沈降(墜落)

過剰ウエート

BCDへの
送気不足

コンタクトして沈降を停止させBCDへ送気する、あるいはウエートを外して浮力を確保する。

BCDへの送気ができないときは、インフレター部と中圧ホースの接続ができていないか、タンクバルブが開いていないと予想される。

タンクバルブが開いていないときは、エアー切れ状態なので、バルブを開くか、オクトパスレギュレータを与えて、相手の呼吸を確保する。

いずれにせよ沈降を素早く停止させないと、窒息、スクイズの可能性もあるし、海底が深いと行方不明になるおそれもある。

いったん浮上して、相手の状態を確認してから次の行動(続行か中止)に移る。

突発的な浮上(水面への逃避)。この場合、セカンドステージを放棄し、息をこらえてしまうことが多いといわれる。

さまざまな要因(肉体的あるいは精神的ストレスの蓄積)によるパニック

肺の過膨張による障害の危険もあるので、急浮上を停止させるためにコンタクトして、連続排気やレギュレーターのリカバリーをうながしたり、オクトパスレギュレーターを与えたりしながら浮上する。

相手に絡まれる、拘束されるという事態に陥り最も二重遭難のおそれがあるので、慎重かつ確実な対応が要求される。

水面に到達したら両者とも浮力確保する。

落ち着きを取り戻したら、コンタクト(相手を保持あるいは傍にいる)しながら水面移動でエキジットポイントやボートに戻る。

改善しないときは、曳航するか他の応援を要請する。

かなり深い水深での、
 

くわえているセカンドステージやマスクなどを放棄する。

重度の窒素酔い

水中でレギュレーターやマスクを放棄すれば、すぐに溺水につながるのでコンタクトしてすばやく浮上する。

本人のレギュレーターあるいはオクトパスレギュレーによってできるだけ呼吸確保できる体制を整える。

場合によっては水面まで緊急スイミングアセント状態で浮上させる。

救助側も窒素酔いになったダイバーに絡まれる、拘束されるという事態に陥り最も二重遭難の可能性があるので、慎重かつ確実な対応が要求される。

窒素酔いは浅い水深になれば消失して、本人も落ち着きを取り戻すこともあるので呼吸さえを確保すれば、それほどむずかしくなく浮上できる。

くわえているセカンドステージやマスクなどを放棄する。

さまざまな要因(肉体的あるいは精神的ストレスの蓄積)による気力喪失

生命放棄に近いので、いち早く浮上させます。

肺の過膨張による障害の危険もあるので、コンタクトして見極めつつ浮上する。

水面に到達したら、呼吸の有無を確かめる。呼吸がなかったら、急速換気(人工呼吸:マウスツーマウス)をする。

相手がアシストに応えようとしない場合もあるので、アシストする側は慎重に対処する。

水面に到達したら両者とも浮力確保する。

落ち着きを取り戻したら、コンタクト(相手を保持あるいは傍にいる)しながら水面移動でエキジットポイントやボートに戻る。

急速換気で改善しないときは、人工呼吸を施しながら、水面移動でエキジットポイントやボートに曳航します。また、他の応援を要請する。

突然な運動停止

心臓発作などによる意識消失

いち早く浮上させることが肝要である。

肺の過膨張による障害の危険もあるので、相手を確保して見極めつつ浮上する。

水面に到達したら、呼吸の有無を確かめる。呼吸がなかったら、急速換気(人工呼吸:マウスツーマウス)をする。

水面に到達したら両者とも浮力確保する。

急速換気で改善しないときは、人工呼吸を施しながら、水面移動でエキジットポイントやボートに曳航します。また、他の応援を要請する。


急速換気:呼吸停止者に対して、マウスツーマウス人工呼吸法によって、立て続けに息を4回吹き込むことです。呼吸停止者の鼻をつまみ鼻孔をふさいでいることが大切です。

 

【ご注意】

 以上のアシスト・レスキューの事例は、あくまでも参考例です。これ以外に予期しない原因や要因でのトラブルもあるので、時々の臨機応変のアシスト・レスキューが必要になります。それには確固たるダイビングスキルや知識を習得するとともに、レスキューの意識やスキル・知識も身につけていくことが大切です。

 ○印のものは、ダイビング中によく見られるダイバーのトラブルです。●印は、本人固有の精神的、肉体的な要因から起ると考えられますが、最近ダイビング中の突然死というようなことも報告されています(注3)

 ダイビングでの事故死は、法医学上ほとんど「溺死」という診断が下されますが、溺死にいたる原因や要因については水面下という事情もあってあまり報告されません。これもダイビングの特殊性のひとつです(注4)


【ダイバーとしての心構え】

 水面下でのトラブルは、アシストやレスキューをしてくれる人にも多大な労苦と危険に遭わせます。自分がアシストやレスキューの立場になったときを想像すれば、「果たして、できるかな?」というところが正直なところでしょう。不可抗力というものもありますが、やはりトラブルを起こさないという意識が大切です。物事は、段取り8割・実施2割といわれますが、ダイビングも計画や事前準備をしっかり整えることによってトラブルから回避するように努めなければなりません。

 また、ビーチダイビングにせよボートダイビングにせよ、ダイビングは救急救命機関(病院)からすれば遠方(注5)での活動ですから、救急救命機関に収容するまでの時間は、一般的な事故と違い時間がかかります。この意味からしても「事故やトラブルを起こさない」といった心構えが必要になってきます。

 インストラクターやガイドや上級者に「すべておまかせ」という態度は慎まなければなりません。彼らは決してスーパーマンではありません。

(注3)

これは、、現代の日本人全体にいえる運動能力の低下や野生感覚の喪失などが映し出されているところではないかと思われます。

(注4)

事故で亡くなられた方には心より哀悼の意を表しますが、私たちが最も知りたい溺死にいたる原因や要因については、詳しく知ることができません。こうだっただろう、という推測によることが多いところです。

(注5)

かたい表現ですが、ダイビングスポットは極地化しているといえます。