ナイトダイビング

 夜、海に潜れば、夜行性の生物や昼間とは違う生物の生態に出会えたり、闇に夜光虫が幻想的な光を放つところが見えたり、異質の世界を体感できます。ナイトダイビングは、水中ライトが照らす範囲しか見えませんが、地球深部をも連想させます。

 赤潮の時期や潮まわりの悪いとき、普段でも汚濁している湾内などでは、期待する視界が得られません。また、微粒子で着色されて、清澄であっても日光を通さない水も地球上には存在します。

 夜の水中でも、潮の動向や汚濁や着色などによる水中でも、視界ないことには変わりませんが、夜に潜ることをナイトダイビング、潮の動向や汚濁や着色などが原因による視界のない水中に潜ることを視界不良潜水と分けています。

 視界がない水中に潜るには、水中ライトが新たに必要になります。

 ナイトダイビングおよび視界不良潜水は、一般に行われているアドバンスダイバー課程のひとつの課題になっています。視界がない水中に潜る筋道は、やはりインストラクターに習うのが一番です。

 見えないところに潜る、人それぞれの好みがあるところですが、これからさき思うように視界がとれないダイビングもあるでしょう。また清澄でも見えない水中を訪れることがあるかも知れません。そんなときのために、一度は実体験しておくいことをお勧めします。

 視界がない条件下の実習は、総合的なダイビングスキルを、更なるダイビング勘を育てるのにいい機会です。ここでは、ナイトダイビングを主にして解説します。

 

【いろいろな水中ライト】 

白熱球・クリプトン球の水中ライトの例。マンガン乾電池・アルカリ乾電池を使用。一般的に6ボルトで、型の大きさで単1・単2・単3の電池をつかう。

光量の多いハロゲン球の水中ライトの例。アルカリ乾電池(一次電池)を使用。3ボルト、6ボルト、9ボルト仕様がある。

大光量水中ライトの例。ハロゲン球を使い20ワットから55ワットのまで多種ある。ニッカド電池・ニッケル水素電池を使用。


【水中ライト使用上の注意点】

 水中ライトは普通の懐中電灯と変わりませんが、耐圧のため本体は普通のものより頑丈(アルミ合金製のものもある)にできています。前面ガラスは本体キャップに組み込まれ、外すことができないように作られています。

 電球あるいは電池の交換や充電のために、本体とキャップ部を離すとOリングが見えます。このOリングが防水の要です。間違った使い方をすると、水が浸入して機器類を駄目にするので、いくつかの注意点をあげておきます。

  1. Oリングや溝、そして相方の表面をきれいにします。水中で使っていると細かい砂などがOリングまわりに付いています。
  2. Oリングや溝の表面に専用のオイルを薄くまんべんなく塗布します。オイルは水をはじく効果がありますが、部品を合わせたときにできるOリングのねじれを修復しやすくするもので、ゴテゴテ塗ると返って水を引き込むことがあります。
  3. ねじれのないようにOリングを溝におさめ、相方と合わせます。
  4. 水中ライトや水中カメラなどの機器類は、直射日光を避けてください。直射日光に当たっていたり、温度の高いところにおいたりしておくと、中の空気が膨張しています。そのまま水に入れると中の空気が急速冷やされ収縮します。この勢いで水を引き込むことがあります。
  5. 電池はガスを発生し、機器が破損する場合もあるとメーカーは注意を促しています。長期間、電池は入れっぱなしにしなしことです。
  6. ハロゲンライトは大きな熱を発生します。水中ライトは密閉されているので、陸上で点灯していると熱で壊れます。また、陸上で点灯して水に入れると前面ガラスが割れます。ハロゲンライトは、水中で点け水中で消してください。
 

【ナイトダイビング】

[機材の準備]
 ナイトダイビングは、見えないという異質の条件下の潜水ですから、何よりもまして総合的なダイビングメソッドが要求されます。

 スクーバダイビングは潜水器具機材があって成り立つものですから、異質の条件下に潜ろうとすれば器具機材が確実に作動するか、いつも以上に事前の点検はよくすることが必要になります。特に、残圧計・水深計・コンパス・ダイビングコンピューターなどの情報機材は入念に点検してください。

 そして安全装具のダイビングナイフは必ず携行します。捨てられた釣り糸にでも引っかかったら、それだけでパニックものです。水中拘束からの護身用としてダイビングナイフを忘れないでください。

[水中ライト]
 潜水中に停電すると、真っ暗闇におかれます。バックライトのないダイビングコンピューターだけだったら、自分の状況さえ把握できなくなります。バディも自分が何処にいるかも分かってくれません。あとはバディのライトだけが頼りで、ひたすらコバンザメのようにバディにくっ付いていかねばなりません。

 ナイトダイビングの必須条件は灯りの確保です。水中ライトに水が入ったら水中ライトは間違いなく使い物にならなくなるので、前記の事柄に注意して準備してください。それにもうひとつ大切なことは、一次電池なら新しいもの、二次電池なら充電済みのものと使うようにします。少なくとも電池の消耗による停電は防ぐことができます。

 電池には放電時間がありますから、使う電池の放電時間も知っておくのも方法です。ニッケルカドミニウム電池は、浅い放電と再充電を繰り返すと、電池容量がみかけ上低下して放電時間が短くなります。この現象をメモリー効果といい、この電池の際立った特性です。ときどき、充電器のリフレッシュ機能で容量を回復することも必要です。

 バックアップライトを持てばメインライトが停電しても耐えられます。状況によってはバックアップライトも必要になります。光量はありませんが、常時発光しているケミカルライトを装備すると、たとえメインライトが消えてもバディに自分の位置を知ってもらう助けになります。簡易なバックアップライトとしてケミカルライトは有効です。

[潜降・浮上の速度コントロール]
 潜降・浮上ロープを利用すれば、潜降・浮上速度を制御するのは難しくはありません。潜降・浮上ロープを設置できないところの潜降・浮上は、速度のコントロールが試されます。

 水中は空気中のように遠くまで光が届きません。ライトの光束はスッと水に通っているだけです。海底にライトを向け潜降し、海底が見えたときはもう自分と海底の距離はありません。潜降速度が速いとその勢いで海底に突っ込むことになります。その海底がガンカゼ畠だったら、彼らの針の攻撃をもろに受けることになります。また、軟泥質の湖底だったら、舞い上がった泥の煙に光が反射して一瞬明るくなった感じになりますが、泥の煙の中にいるだけで何も見えません。

 反対に、潜っても潜っても着底できず、何処まで落ちていくのだろうと不安を覚えることもあります。こういうときは、耳で圧力を感じたり、水深計を見たりして潜降状況を把握しなければなりません。

 ライトの先に現れるもの、圧力の掛かり方、レギュレーターの吸排気の感じ、水深計の確認など全知覚を総動員して潜ります。

 浮上は潜降より簡単です。水面のじゃまもの例えばボートなどに注意して、水深計を見ながら浮上するだけです。ナイトダイビングや視界不良潜水では、対象物がないとやはり浮上しているのか、していないのか、分からなくなることがあります。フィンの力と沈もうとする力が釣り合うと一定の深さに留まってしまうときがあります(ホバリング状態)。必ず水深計を確認しながら浮上します。

 ナイトダイビングや視界不良潜水では、一層の沈着冷静な行動が要求されます。

[中性浮力]
 水中移動の要領は、ライトが海底や湖底を照らし見えるくらいの高さに沿って泳ぎます。そして、じっくり観察したいものに出会ったら、じょじょに浮力を減じ静かに着底します。昼間のダイビングと変わるところはありませんが、ライトが照らす高々直径1mの範囲くらいしか見えないので、中性浮力を確実に得て移動します。

 フィンで海底や湖底をたたいていると、砂泥を舞い上げて視界を悪くするばかりでなく、眠りについた生物もたたき起こすことになっているかも知れません。

 浮力が大きいと知らず知らずに浮き上がり、バディとはぐれてしまうこともあります。いつの場合も中性浮力はダイビングの要諦です。

[機材のリカバリー]
 暗がりでも、ものがある場所がわかっていれば難なく取ることができます。何かの拍子でレギュレーターが外れることがあるかも知れませんから、レギュレーターリカバリーの方法をしっかり身に付けておいてください。そしてもうひとつ、計器類に自然に手が伸びるということも大切な感覚です。普段から一定のところに保つようにしておけばあわてることもなくなります。

[ナビゲーション]
 ナイトダイビングや視界不良潜水は、高度なナビゲーシィンが要求されます。コンパスや水深計を駆使するほか、あらかじめ四角形、三角形などのコースを設定して計画通りに行います。

 ナイトダイビングは、昼間のダイビングと違って長距離を移動することはないようにしますが、エキジット地点近くまで潜水したまま帰ってきたほうがよりよい結果になります。

[外の灯り]
 ビーチダイビングなら、エキジット地点にライトをおいておきます。水面にはライトの光が一条の繋がります。水面移動の際、この水面の光を追って泳げば最短距離で泳ぎ着くことができます。

 ボートダイビングなら、ボートの灯りが水中からも確認できます。青白く水面を照らす光に向かって浮上すればボートへのエキジットは簡単なものになります。

 

【ナイトダイビングのマナー】

 誰でも真正面から光を当てられたら、眼がくらみその周りは見えなくなります。光を外されてもしばらくは眼に光の残像があって、視覚が元に戻るまで時間が掛かります。

 相手に光をもろに当てることは普段でもマナー違反ですが、ナイトダイビングのときは特に気を付けてください。相手に知らせたいことがあれば、自分にライトを向けて伝えます。

 細かな合図は互いに近づいて手信号によりますが、ライトによる大まかな合図は次の通りです。

OKです。OKですか。

注意!。ここを見てください。

異常があります。

ライトをまわす。

ライトを水平にスライドする。

ライトを垂直に振る。