【湖のダイビング】

 地球上の水の総量は、約13億5千km3で、そのうち97.5%を海水が占めます。他は北極や南極や高山で氷に姿を変え、湖沼や川などに存在します。湖沼水は総量の0.016%約21万9千km3で、世界のあちらこちらに点在しています。

 「どうも、湖は気味が悪い」という人も少なくないですが、湖には伝説や湖底遺跡の話があったり、魚の珍しい生態を垣間見たりすことができ、ダイバーも好奇心が引かれるフィールドです。

 湖は、その湖がある気候帯や成因や地質や標高によってさまざまな様態を呈していますが、大雑把にいうと海のダイビングとは次のような相違点があります。

1.

淡水(注1)なので海水に比べ浮力が小さい。

ウエートを少なくする。

2.

水温が低い。夏季サーモクラインがはっきりする。

保温性の高い潜水服(ドライスーツなど)が適している。

3.

標高で湖面気圧が低くなる。

減圧表を修正したり、高所用減圧表を使用したりする。

4.

標高の低い湖や周辺に人口が多い湖では透明度が低い。

生活廃水流入などによる富栄養化が促進する。

5.

透明度・透視度

外から一見すると、青・緑・赤系のさまざまな透明感のある光彩を放っていても、実際潜ってみるとさまざまな微粒子が水を濁らせている。


(注1) 海抜0m以下あるいは高山の湖では、湖より流れ出る水がなくほとんどが蒸発するので水は濃縮され塩分の多い湖たなります。淡水湖と比べ少ないですが、タンザニアのナトロン湖、ボリビアのウユニ塩湖などが有名な塩湖です。塩湖をソーダ湖ともいいます。
 

【湖沼の種類】

 湖沼(こしょう)は周囲が陸地で囲まれ海とは切り離された盆地に出現した淡水の水域としますが、海に隣接したり大陸内部にあったり、また水に溶けている鉱物や塩類の量で、淡水湖鹹湖(かんこ)(注2)に分類されます。かん湖には次のような種類があります。

汽水湖:

海岸近くにあって、多くは海と水路で結ばれ海水が入る湖です。宍道湖などは海水より淡水の量が多く、ウナギ・ワカサギなどの淡水系の魚が獲れる。浜名湖やサロマ湖などは淡水より海水の量が多く、スズキ・クロダイなどが獲れ、ノリやカキの養殖もできる。

鉱水湖:

火山地方にあって、硫酸石灰・塩素・鉄・マンガンなどを多量に含んだ湖です。酸性が強くほとんど生物はいません。赤・エメラルドブルー・濃緑色の水が特徴的である。五色沼・蔵王のお釜・恐山湖などが有名です。

内陸かん湖:

蒙古や満州などの大陸内部では気候が乾燥し湖水の蒸発が多く、湖に流入する川に水に溶けている塩類が長い年月の間に次第に濃縮されて、塩類の濃い湖になっていきます。こういった湖を内陸鹹(かん)湖といい、死海やアメリカのグレートー・ソールトが有名です。

 日本の湖は大部分が淡水湖です。かん湖のうち、水質の条件から汽水湖がダイビングの対象となるでしょう。

(注2) 塩分など無機塩類か、水1リットル中に500mg以上含んでいる湖をいいます。
 

【湖沼の成因】

 湖は、火口や断層帯に水が貯まったり、また川がさまざまな要因で塞き止められてり、侵食されたりしてできました。成因とその代表的な湖は次の通りです。

[構造盆地]

断層湖 

琵琶湖、木崎湖、青木湖、中綱湖、諏訪湖

カルデラ湖

十和田湖、摩周湖、阿寒湖、池田湖

火口湖

大浪池、蔵王御釜、御池

[堰止盆地]

熔岩堰止

中禅寺湖、湯の湖、菅沼

泥流堰止

秋元湖、檜原湖、松原湖、渡島大沼

山崩堰止

震生湖、柳久保池、大島池

沖積堰止

手賀沼、印旛沼、牛久沼

砂丘堰止

多鯰ガ池、東郷池、

砂州堰止

八郎潟、河北潟

氷堆積堰止

白馬大池、弥陀ガ池、みくりが池

[侵食盆地]

河川侵食

三日月湖、中沼、

溶食湖(注3)

津軽十二湖


(注3) 石灰岩や岩塩のように水に溶けやすい地形のできる湖です。日本では少なく津軽十二湖以外は秋吉台にわずかにみられます。
 

 やはりダイバーとしては、実際に潜るにあたって気になるのが、水温や透明・透視度です。水温は湖が位置する固有の条件が最も大きな要因で、透明・透視度は周辺の開発によって変わっていきます。

【湖沼の水温】

 湖水の水温は表面温度で測られますから、そのときの気温に近いのが普通です。気候によって、その湖の特異性が現れます。湖は、熱帯湖、温帯湖、寒帯湖の三つに分類されています。

熱帯湖

熱帯や温帯南部で気温の高いところにある湖の表層水温は、冬でも4℃以下にはなりません。これは、芦ノ湖から琵琶湖を結んだ線から南の湖がこれにあたります。この地帯およびもっと南の熱帯地域の湖では、表層水の温度が高いため湖水の循環対流が起きずサーモクライン(温度踊層)が顕著になります。サーモクラインを過ぎると清透で冷たい水域が現れます。

温帯湖

夏には表層水温が4℃以上となり、冬には4℃以下になる湖をいいます。水は4℃で最も密度が高くなるので、この時期湖水は循環対流を起こし、表層から深層まで水温・水質が一様になります。

寒帯湖

一年中、水温が4℃以下の湖で日本には見られませんが、これに近い湖として木曾御岳の二の池があげられます。

 一般に湖面から水深5m位までは、一定の水温で表水層と呼んでいます。表水層より深いところを深水層といいます。深水層に入ると1m毎に3〜5℃、例外的に10℃も下がる湖も存在します。

【湖水の色と透明度】

 湖面は、晴れた日曇った日、朝・昼・夕で色が変わります。あるときは濃紺に、あるときは空の色を映し澄み切った青に見え、樹木に囲まれている湖は緑を映し、本当の水の色とは違います。外から見て透明度がいいと思っても、おうおうにして錯覚で実際に潜ってみるとがっかりさせられることもしばしばです。

 本当の水の色は、沖合いに出て舟の陰(日陰)で見える色です。ここで見える藍色なら透明度はおおいに期待できますが、プランクトンがが繁殖しているとそれに光が反射して緑色に見えたり、泥炭地にある湖では褐色に色づいていたりすると、透明度は期待できません。日本にはありませんが、夏の南極や北極の氷の上に現れる青や緑の透明感のある湖や氷河湖なども、外から見る美しさとは違い微粒子によって水中は白濁していることが多いものです。

 湖水の色と透明度はこのような関係があり、外から見る色に惑わされてはいけません(これは海でもいえることです)。

 また、湖水の色と透明度は湖水の型すなわち富栄養や貧栄養でも変わってきます。

 

【湖沼の型】

 湖沼は、水深・水の色や水の濁り・水質などによって、そこに棲む生物の種類も違ってきます。深くて生物が棲めない湖を貧栄養型、浅い湖を富栄養型と呼びますが、湖の型の分類は次の通りです。

[貧栄養型] 
 貧栄養型の湖は水に溶けている栄養塩類が少なく、生物の棲息はないか、またあったとしても僅かな湖をいいます。水は藍色または濃緑色でよく澄んでいて透明度板は10〜30m見える湖が多くあります。有機物が少ないので水中の酸素の消費は少なく、水底までほとんど飽和しています。

 湖底は岩石・砂・砂礫などで成り大型の植物の生育は悪いが、泥部分の湖底にはユスリカの幼虫が見られ、甲殻類が比較的多く、マスやウグイの寒冷水魚が棲息します。

 日本の湖を湖沼の型で分類すると、摩周湖、阿寒湖、田沢湖、十和田湖、中禅寺湖、琵琶湖、池田湖などがこれに入ります。

[富栄養型]
 多くのプランクトンが繁殖しているので、湖水は緑色または黄緑色をして透明度は低くなります。夏は有機物が分解されるので、水の酸素は消費されるため、湖底ではたいてい無酸素の状態になってしまいます。オオユスリカの幼虫やイトミミズのような酸素を必要としない生物が見られます。

 富栄養型の湖は、植物プランクトンでは珪藻や藍藻、動物プランクトンとしてはワムシ類やべん毛虫類がよく繁殖します。魚類は、暖水魚のウナギ、コイ、フナ、ワカサギなどが多く、漁獲として有用な湖です。

 霞ヶ浦、諏訪湖、震生湖などが富栄養型の湖に分類されます。

[酸栄養湖]
 酸栄養湖は火山地方にあって、硫酸や塩酸など無機酸が多く溶け込んでいる酸性の強い湖です。湖水の色は特徴的で、青く透き通っているものもあれば、牛乳を流したように青白くトロミを感じさせるものもあれば、鉄イオンが溶けて赤褐色をしている湖もあります。

 著名な湖としては、磐梯高原の五色沼、猪苗代湖、屈斜路湖です。

[腐植栄養型]
 泥炭地方にあって、水中に腐植コロイド(注4)が浮いているので水は褐色になります。プランクトンは一般的に少なく、魚もほとんど見られません。これは、湖水が強酸性なことと、腐植質が水に溶けている硝酸塩や燐酸塩を吸着してしまうという理由によるものといわれています。

 日本では北海道の泥炭地帯に見られ、東北地方の岩木川の流域がこの湖の南限といわれます。

                     (参考文献:日本の湖ー湖沼学入門 鈴木静夫書 内田老鶴圃新社)

(注4) 物質が0.1〜0.001マイクロメートル程度の微粒となって液体・固体・気体の中に分散している状態をいいます。膠(にかわ)・デンプン・寒天・卵白・マヨネーズ・煙などの類がこれにあたります。