【意識がない溺水者(ダイバー)】
溺水は一般的に水中に全身が沈んだ状態で発生しますから、溺水者は呼吸が停止し意識がないとみるのが順当で、いち早く溺水者を探し水面まで引き上げるといった行動が先に加わります。
[溺水者を探す]
水中での捜索は、深さ・海底地形・透明(透視)度・流れなどによって難易度が異なってきます。もし、行方不明者のバディから遭難地点など情報を得られれば捜索範囲をある程度絞り込むことができるでしょうが、バディとも行方不明になったり単独ダイバーであったりすれば捜索範囲も広がり困難な捜索となるでしょう。
溺水者の捜索といっても、私たち一般ダイバーができることは事故直後の初動的な捜索です。なぜなら、
という条件にあるからです。どれほど多くのダイバーが捜索に参加しても、それぞれの「持ち時間」の範囲で発見されなければ、後は地元の協力を得て捜索隊を編成したりすることになります。
水中でものを探すときのセオリーは、「深場から浅場に向かって」、「沖から岸に向かって」がセオリーです。そしてある幅の範囲を行ったり来たりしながら、浅場に向かうあるいは岸に向かうといった方法です。透明度のいいときは、水底から離れ俯瞰するようにすると視野が広がります。
[溺水者を引き上げる]
溺水者がどのような原因で沈んだか不明ですが、溺水者を発見したらいち早く水面まで引き上げますが、浮上は救助者の浮上速度に準じます。
溺水者がスクーバダイバーの場合、肺の過膨張による障害が懸念されますが、溺水者を立位姿勢にして上げれば自然に排気するといわれますので、あまり心配しなくてもよいとされています。溺水者がレギュレーターをくわえていても、外していても、それぞれの状態を保持して引き上げます。
引き上げを容易にするために浮力を得ます。状況に応じて、溺水者のあるいは溺水者と救助者のウエートを外したり、BCDへの送気をしたりします。逆にあまり浮力が付きすぎると浮上速度が速くなるので、BCDの排気をしたり、またはフレアリング姿勢(注1)をとったりして急浮上を抑えます。
[急速換気]
溺水者を水面まで引き上げたら、急速換気を行います。これで溺水者が息を吹き返さなかったら、人口呼吸をほどこしながら曳航します。
[溺水者の曳航]
溺水者がスノーケリングの人やスキンダイバーであれば、浮力を確保して5秒に1回の割合で人口呼吸をほどこしながら曳航します。
溺水者がスクーバダイバーだと溺水者のタンク(レギュレーターも含む)が曳航の妨げになるときがあります。このようなときは、BCDは溺水者に残しタンクを外しますが、BCDによってタンクを固定する方法(ベルト1本で固定している、ベルト2本で固定している、締め具がハーネス側に隠れているなど、種々ある)がさまざまあるので、とっさに見極めて最良な方法をとらなければなりません。
ここで忘れてはならないことは、5秒に1回の割合で人口呼吸をほどこしながら、曳航しながら、タンク(レギュレーターも含む)を外さなければならない点です。人口呼吸の合間の5秒を利用してひとつづつ順序よくおこないます。例えば、
・吹き込み1回
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・次の吹き込みまでの5秒間に、インフレーター部から中圧ホースを外す。
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・吹き込み1回
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・次の吹き込みまでの5秒間に、タンクベルトをゆるめる。
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・吹き込み1回
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・次の吹き込みまでの5秒間に、タンク(レギュレーターも含む)を離脱させる。
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・吹き込み1回
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というようにします。
こんなときは
人工呼吸をした際、一般には胸が上がる(膨らむ)ことで空気が入っているかどうか確認しますが、水の中では確しづらいです。溺水者に人工呼吸をして、抵抗感があったり頬が膨らむだけだったりしていれば空気は入っていません。
水中では蘇生法では、背部叩打法や上腹部圧迫法(ハイムリック法)もできません。このようなときは、いち早く岸やボートに上げて人工呼吸や心肺蘇生をすることになるでしょう。
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[岸あるいは船上への引き上げ]
浅瀬についたら、溺水者を陸にあげる準備をします。準備は救助者自身の器材の脱装ですが、溺水者の呼吸が回復していなければ、人工呼吸の間の5秒間にひとつづつ順序よくおこないます。
波のあるときの浅瀬は、ただでさえエントリー・エキジットがしにくいところです。溺水者も救助者も波に叩きつけられることも充分あるので、注意深く素早い行動が求められます。
溺水者を岸にあげ運搬するには、次の方法があります。
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消防士の運び方(fireman's
carry)………肩に乗せる。一人で比較的長距離を運ぶのに向いている。
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腰に乗せる(saddle back carry)…………腰に乗せ、両腕で支えながら運ぶ。比較的体力のないものが運ぶのに適している。
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背中に乗せる(pack strap carry)………身体の小さい者はおんぶ。身体の大きい者は両腕を胸の前で保持して運ぶ。
岸に誰もいなっかたら一人で何もかもしなければなりませんが、岸に人がいれば応援をたのみます。溺水者を運んでくる救助者をみれば、人は本能的に支援の手を差し伸べてくれるでしょう。岸にいる人は、担架あるいはそれに変わるものを用意すれば、引き上げや運搬は容易になりますが、このようなものが入手できないときは、溺水者の胴を両サイドから二人で抱きかかえ、もう一人は脚を持つ、三人で運ぶ方法が一般に採用されます。
溺水者を陸にあげたら、真っ先に、呼吸停止だけか、心臓停止していないかを見極めます。いずれにせよ蘇生術を実施しますが、平行して溺水者のウエットスーツを脱がす、身体をふく、救急車を手配する、など手分けして進めます。
ボートは、プラットホームのあるダイビング専用船、漁船、和船などのタイプがありますが、船長、テンダー、ダイバーの協力を得て、最もよい方法であげます。引き上げ後は、真っ先に、呼吸停止だけか、心臓停止していないかを見極め、蘇生術を実施します。
(注1)
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浮上中、水面に対して仰向けになって、進行方向に対する抵抗面積を増やす姿勢です。
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