肺のスクイズ

 水圧の人体への作用についてはまず、、胸の構造を知っておくと分かりやすいと思います。
 胸椎、肋骨、胸骨によって籠状になった胸部の骨格を胸郭といい、これに体壁の筋肉が加わって胸腔を作り、中に肺、心臓などをおさめています。胸腔下部は、横隔膜を境として腹腔に接しています。
 胸腔におさまっている肺は、空気を含む一番大きい体腔で、呼吸を止めたとき閉鎖空間になります。

 左図を見てください。息をいっぱい吸って、吐けるところまで吐いたときの呼気の量が肺活量です。息を全部吐いたと思っても、肺に空気が残っています。これを残気量といいます。
 残気量は、全肺気量の約5分の1で、肺としての形態を保つ最小の大きさです(注)。肺がこれより小さくなると、いわゆる肺がつぶされる、こわれるということになります。

 スキンダイビングは、肺活量いっぱいに空気を吸って潜ります。気体の体積は、圧力に反比例して、肺の大きさは、水深10mでは2分の1、20mでは3分の1、30mでは4分の1と、どんどん小さくなります。それに伴って、胸郭も小さくなっていけば問題はないのですが、肋骨で囲まれている胸郭は小さくなりません。そして40mに達すると、肺は元の大きさの5分の1、つまり残気量の大きさになり、40mを越えると肺はこわれはじめます。これを肺のスクイズといいます。

 肺がこわれる、ちょっと不気味な話しですが、あまり心配しないでください。一般常人とすれば、スキンダイビングで水深15mも潜ることができれば上出来で、息をこらえる時間、肺内酸素の消費による酸素不足の影響などを考えると、40mの深さごときは、はるか彼方の遠い世界です。

 しかし、これだけは守ってください。スキンダイビングは必ず、肺活量いっぱいに空気を吸って、潜ってください。 中途半端な吸息で潜ると、残気量に近づく水深は浅くなります。

(注)

世界には、水深100メートル近くまたはそれ以上、素潜りをする人がいます。今までの概念では肺の残気量からいって不可能とされていたのですが、その常識を破る人たちがいます。どうやらそれは、胸腔(胸膜腔)に血液をより集中させることによって、肺を残気量以下に小さくすることができるのだそうです。それには神懸かり的なトレーニングが求められるのだと思います。