【減圧症にならないために】
楽しみで潜る私たちスクーバダイバーにとって、減圧症に罹ったら、せっかくの楽しさも台無しになってしまいます。減圧症に罹ると再圧治療が必要なのですが、再圧室を設置している病院は多くありますが、減圧症の治療ができる病院は数かぎられています(注4)。
多くのダイバーが集まるダイビングスポットでも、再圧治療のできる病院からみればたいへんな遠隔地にあります。まして離島や僻地(注5)になればもっと遠くなります。この意味でダイビングは、極地化したところでの活動なのです。私たち減圧症に罹らないことを、最優先にしなければなりません。
では、どうするのかというと、「私たち一般スクーバダイバーは、無減圧潜水を旨とします。」、これを標語のように覚えてください。
例えば、ある水深に潜ったとすると、時間の経過とともに身体に溶ける窒素の量は増加していきます。また、潜水が終わって大気圧下に戻ると、やはり時間の経過とともに身体に溶けている窒素の量は減少していきます。すなわち、窒素が溶けたり排出されたりするのは、時間という要素が重要になってきます。
窒素の溶解と排出は、深度(圧力)と時間との相関関係にあるので、さまざまな潜水深度のさまざまな潜水時間に対して、浮上にかける時間や方法が設定されています。これを一覧にしたものを減圧表(ダイブテーブル)といい、ダイバーは減圧表に従ったダイビングをすることによって減圧症を防ぐことができます。
深い潜水や長い時間だと、窒素がそれだけ多く溶けているので気泡化しやすくなります。窒素を気泡化させずに順当に肺から排出するために、3mとか6mとか9mとかの深さで一定の時間とどまっていなければなりません。これを減圧停止といいます。
さて、ここで問題になるのは、私たちスクーバダイバーが減圧停止をすることは、実際のダイビングにおいて技術的にたいへん難しくなります。
タンクの空気が持つか・空気が無くなったらその補給はあるのか・水深3mの減圧深度を保てるのか(岩やロープなどにつかまっても波のあるときなど減圧深度を保ちつづけられるか)、などで、これを考えると、おのずと減圧停止のない潜水になる、ということになります。これを無減圧潜水といいます。
米国海軍標準空気減圧表から、各深度における無減圧潜水限界時間(減圧不要限界時間)を拾いだすと、
深度(m)
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3 |
4.5
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6
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7.5
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9
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10.5
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12
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15
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18
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21
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24
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27
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30
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33
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36
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39
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42
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減圧不要限界
(分)
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−
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−
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−
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−
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−
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310
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200
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100
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60
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50
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40
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30
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25
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20
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15
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10
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10
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で、私たちは、いつもこの深度と時間の範囲で潜水するようにします。これが「私たち一般スクーバダイバーは、無減圧潜水を旨とします」ということです。さらに、30mより深いダイビングは、潜水時間は楽しみとしても物足りなく、減圧症に罹る可能性も高くなるので、多くの指導機関では、一般スクーバダイバーの活動水深は30m位までということを奨励しています。
海へ行って、1回だけ潜って帰る。これではいくら何といっても面白くありません。時間の許す限り潜りたい、これがダイバーなる者の心情です。
しかし、ここで思い出してください。窒素の溶解も排出も時間の経過をたどりました。例えば、最初の潜水を終えて1〜2時間くらい大気圧下にいてもつまり休憩していても、窒素が全部抜けてはいないのです。次のダイビングでは、身体から抜けきらない窒素(これを残留窒素という)を、すでに潜っている時間、として換算し、前表の無限圧潜水限界時間から差し引きます。
繰り返し潜ることを反復潜水といいますが、12時間以内に行なわれるダイビングをさしています。潜水を終えて12時間以上たった潜水は反復潜水とはいわず最初の潜水(初回潜水)になります。
このように、いつも無限圧潜水限界時間内で潜るようにすれば、減圧症は大幅(注6)に減らすことができます。
今や、ダイビングコンピューターの普及で減圧表はあまり使われなくなりましたが、減圧症を防ぐ基本的なものですから、表の考え方と使い方を一応学習しておいてください。
(注4)
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減圧症の再圧室は、かけられる圧力が大きくなければなりません。こういった再圧室のある病院は限られています。また、他の疾患で用いられる高圧治療に再圧室は、かける圧力が小さいので減圧症治療には不向きです。そのうえ減圧症の専門医が少ないということもあります。ですから、減圧症にかからないようにするのが肝要です。
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(注5)
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ダイバーにとってより魅惑的な海です。
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(注6)
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減圧症は、体内の二酸化炭素の蓄積、また水温などの条件によって起こりやすくなります。減圧表通りに潜水していても減圧表にかかる確率は、何パーセントかあります。
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