減圧表の使い方

 重複しますが、ダイビングコンピューターが当たり前の時代になりました。減圧症のメカニズムを知っておくことが大切で、減圧症をどう回避するかも知っておくことも大事です。ここではそれを理解していただくために、アメリカ海軍で作成された減圧表を元に無限圧潜水表について説明します。

減圧表を使用するにあたっては、いくつかの約束事(用語の定義)があります。

  • 潜水深度……その潜水で最も深い深度。

  • 潜水時間(ABT:実際潜水時間)……潜水をはじめて(水面を離れて)から、浮上を開始するまでの時間。

  • 浮上速度……1分間18メートル
    米海軍減圧表では上記の浮上速度ですが、スポーツレジャーダイビングでは改良を加えられ現在では1分間10メートルに浮上速度になっています。

  • 減圧停止……身体に溶けた窒素を気泡化させずに排出するために、3mとか6mとかの深度に一定時間停止すること。

  • 無減圧潜水限界時間(NDL:減圧不要限界時間)……各水深において、減圧停止の必要ない最大時間。

  • 初回潜水……前回の潜水における残留窒素がない潜水。

  • 反復潜水……12時間以内に繰り返しする潜水。

  • 反復記号……浮上後、まだ排出されずに身体に残留している窒素量をアルファベットで記号化したもの。Zに近くなるほど残留窒素の量が多い。

  • 休息時間……浮上後、大気圧下にいる時間。何かの理由で水面に浮上し、10分以内に再潜水するときは休息時間とせず潜水時間に含める。

  • 残留窒素時間(RNT:修正時間)……反復潜水において、前回のおよび休憩後の残留窒素を時間に換算したもの。

  • 合計潜水時間(TBT)……反復潜水において、実際潜水時間に残留窒素時間を加えた時間。

  • 最大無減圧限度時間(ANDL:最大減圧不要潜水時間)……反復潜水において、無減圧潜水限界時間におさめるために、予定される潜水深度の無減圧潜水限界時間から、残留窒素時間を引いた時間。

 減圧表に表示されていない深度や時間は、それよりひとつ上のランクの値を採用します、例えば、水深20mなら21mを、水深18mの潜水時間35分なら40を採用します。

 ここでは「アメリカ海軍標準減圧表」を基にした
 @無限圧潜水表
 A反復潜水における無限圧潜水時間表
 B休息時間を求める表
 使い方を示します(internet exporer・Mozilla Firefoxで動作します)

 
[次回の最大無減圧潜水時間の求め方]

減圧表(最大無減圧潜水時間の求め方...表2・3・4)

 各深度において、この無減圧潜水限界時間まででも、窒素は身体に溶けますから、この中に時間を細かくしたもにが、表2になります。

 表2が、無減圧潜水表で各深度の右端の時間が無減圧潜水限界時間です。

 例えば、最初に17m・35分の潜水をしたとすると、表2の18m・40分を採用します。この欄を下にたどると、Gにあたります。このGが潜水直後の残留窒素の量を表している反復記号です。

 次に、表3に移り左端のGをあて、右にたどると0:10・0:40とか、2:00・2:58とかの数値が並んでいます。この数値は、大気圧下にいる時間つまり休息時間で、幅を持たせています。ここで、休息時間を2:00・2:58にすると、この欄から下にたどるとDにあたります。すなわち、この潜水において、この休息時間をとると、残留窒素がGからDに減少したことになります。

 さて、2回目の潜水を深度15mにしたとします。表4の左端のDと15mの交点をみると、上段に29とありますが、これが残留窒素時間で、この深度にすでに潜っていた、としなけれなならない時間です。すなわち、15mの無減圧潜水限界時間は100分なので、100分から29分を引いて、最大無減圧限度時間79分が求められます。つまり、この時間の範囲で潜れば、無減圧潜水限界時間内におさまるということです。

 本表4は、最大無減圧限度時間が下段に計算されています。

 

[休息時間の求め方]

減圧表(休息時間の求め方...表2・3・4)

 ダイビング活動上、次回の潜水に必要な深度と時間が決まっている場合、最初の潜水から、どのくらいの休息時間をとればいいかを求めてみましょう。

 最初に、水深21m・30分の潜水だとすると、反復記号はFです。次回の潜水は18mに少なくとも40分潜っていたいとします。18mの無減圧潜水限界時間は60分、、実際潜水時間が40分なので、残留窒素時間は20分以下にしなければなりません。表4の18mの欄をみて、残留窒素時間は20分を探してもないので17分を採用します。反復記号はCとなります。表3で最初の潜水の反復記号Fと、表4で得られた反復記号Cの交点をみると、2:29・3:57の休息時間を採用すればいいことになります。

 

[安全停止の奨励]

 無減圧潜水において、最初の潜水でも反復潜水でも、浮上時に水深5mに3〜5分停止することが奨励されています。これを安全停止といいます。励行するようにしてください。
 減圧停止の必要な潜水になった場合は、安全停止でなく
減圧表(アメリカ海軍標準減圧表...表1)
に従ってください。

 

[深い潜水を最初に]

 その日予定しているダイビングで目指す深度が異なる場合は、深い潜水を最初にすると反復潜水の潜水時間が長くなります。浅い潜水を後半に持ってくるほうが、潜水時間は有利となり減圧症になる確率が少なくなります。 

 

[潜水後の飛行機搭乗には]

 高いところは気圧が低くなります。ダイビングが終わっても体内組織には、窒素が残っています(残留窒素)。潜水後、高いところへ移動したり、飛行機に乗ったりすると、自分を取り囲む大気の圧力(環境圧)が下がるので、残留窒素分圧と環境圧の圧力勾配(傾度力)が大きくなるので、体内組織で気泡が発生しやすくなります。

 このため、潜水後の飛行機搭乗には、充分な休息時間を必要とします。機内が800hPaに保たれる与圧システムのある旅客機への搭乗も、12時間以上の休息時間が必要とされています。

 また、ついつい見過ごされやすいのが、ダイビング当日の帰路です。ダイビングは自動車で行く場合が多いです。日本は山国なので道路はけっこう高い峠もあります。普通の道路や高速道路でも、飛行機内の圧力に迫る気圧のところがあるので、反復潜水の深度や時間、そしてそのあとの休息時間に留意することが大切です。 

 

[米国海軍標準空気減圧表の留意点]

 米国海軍標準空気減圧表は、長年にわたる科学的研究、計算、動物および人体実験、それに広範な実地経験の結果であり、入手できる最善の情報を網羅していますが、深度や潜水時間が増加すると不安定になる要素がありますから、無限圧潜水表の深度内で使用するのが一般ダイバーにとっては最善なことだと思います(注1)

 しかし、豊富なデータに裏付けられたこの減圧表は世界に流布され、各国の軍用潜水、商業潜水、スポーツ・レクレーションダイバーに利用されています(注2)

 ダイビング指導機関では、米国海軍標準空気減圧表をもとに、スポーツ・レクレーションダイバー向けに、より安全度をとった無減圧潜水減圧表を作成しています。

 指導機関個々の減圧表を紹介できませんが、考え方や使い方についてはあまり差異がありません。しかし、用語の定義など細かいところで違う場合があるので、その減圧表に従うことが前提になります。

 減圧の仕組みおよび減圧表の使い方を、基となる米国海軍標準空気減圧表で練習して下さい(注3)

(注1)

深い潜水では、潜水深度や潜水時間とも1ランクづつ上の区分を用いるなどの使い方によって安全の向上を計ります。(U.S.Navy Diving Manual,7−8,1979)

(注2)

アメリカ軍で開発された諸技術は民生用に世界で利用されています。インターネットともそうですが、人間生活や産業の根幹に関わるものは無償で提供しています。このへんにアメリカの懐の深さを感じます。

(注3)

米国海軍無限圧潜水表は、さらに水深45・48・51・54・57mが表記されていますが、45mの無限圧潜水限界時間は5分:反復記号C、48〜57mの無限圧潜水限界時間は5分:反復記号はDになっています。これらの深度での無限圧潜水限界時間5分は、レクレーションダイバーにとって果たしてどんな意味を持つか、はなはだ疑問なので、本サイトでは45〜57mの欄は割愛させていただきました。