フィンの役割

 人が直接海に入り、自分の力で、海面を泳いだり海中を潜ったりして自由に活動できるのは、スノーケリング、スキンダイビング、スクーバダイビングだけです。泳いだり潜ったりということは、自分の身体をある所から別なところへ移動させることです。スノーケリングを含めた広い意味でのダイビングでは、水面移動とか水中移動という言葉がよく使われますが、この移動にはフィン(足ヒレ)だけが頼りになります。沖へ出ていくのも陸に帰ってくるのも、水中深く潜っていったり水面に帰ってきたりするのも、すべてフィンによって行ないます。

 ここで、スクーバダイビングで使われる用具や器材を列記してみます。スノーケル、マスク、フィン、ウエットスーツ(ドライスーツ)、グローブ、ブーツ、ウエートおよびベルト、タンク、レギュレーター、オクトパスレギュレーター、BCD、残圧計、水深計、コンパス、ダイビングコンピューター、ナイフなどたくさんあります。こんなにある中で、移動に供するものは唯一フィン(注)だけなのです。 

 しかしフィンを履いたからといって、フィンが勝手に動いてはくれるわけではありません。自分の脚で動かさなければなりません。つまり脚の運動によってフィンが働いてくれるのです。この脚の運動が、スノーケリングを含めた広い意味のダイビングで、最もスポーツ性が発揮されるところなのです。

 正直なところ、フィンは水をとらえる面積が素足より大きいですから、どんな動かし方をしても素足でバタバタするより前へ進みます。しかしこれではフィンを正しく使ってるとはいえず、かえって疲れたり足が痛くなったりします。フィンの役割りは効率にあります。すなわち、最小の運動エネルギーで最大の推進力を得る、ところにあります。それには、フィンを含めた身体全体の運動性を考えなければいけません。

 本来なら、プールなどでフィンでの泳ぎ方を直接指導するのが筋なのですが、本講座はネット講座なのでままなりませんが、これを参考にフィンを使って泳げるプールがあったら練習して下さい。

 フィンについては、どうしても運動法則や流体力学的な説明が必要になります。そんな七面倒臭いことやってられない、という向きがいると思いますが、スポーツの世界では、「動作が上手な人は美しい」ものです。反対に「動作が美しい人は上手」といえます。人目を気にすることはないのですが、昨今ダイビングポイントでは大勢のダイバーが海を楽しんでいます。やはりその中で「上手に美しく」泳いだほうがいいと思います。それはまた安全や楽しみの倍増につながっていくことなのです。

(注):

スクーバダイビングの場合、BCD(Bouyancy Compensator Device:浮力調整具)によって浮力を調節して、水中で上下移動をすることもあります。

 

【ざつがく事典】

 足ヒレの誕生
 テレビ映画「シーハント」主演男優のロイド・ブリッジスは、彼の文芸作品「マスク・アンド・フリッパー」で、フィンの誕生について語っています。当時、彼はハリウッド一のスキンダイバーだったそうです。

 「世界で初めて足ヒレを使ったのは南洋諸島の住民であり、かれらはヤシの葉柄部を足にしばりつけて海に入っていた。1930年、この地を旅行したオウエン・チャーチルは、かれらとともに泳いでこれを学び、その効果におどろき、さっそくカルホルニアに持ち帰った。その後、苦心して今日の足ひれの形を作り上げパテントもとったが、誰一人としてこれの製造を引き受けなかった。オウエンはイカサマ発明狂といわれながらもこれに屈せず、ついに自分で工場を作ったが、しばらくは泳ぎを楽しむ連中にも見向きされなかった。
 スキンダイビングが近代スポーツとして台頭しはじめた頃、たまたまガイギル・パトリックというスキンダイバーが、これを使うとたちまち彼らの間に広まっていった」、とあります。

 つまり足ひれは、水中スポーツの誕生とともに日の目をみたのです。

 アメリカでこの足ヒレが今日の隆盛をもたらすきっかけは第二次世界大戦で、UDT(水中破壊部隊)が初めてマスクと足ヒレを軍需品として採用し、そのためにハワイやアメリカ西海岸の足ヒレを買い集めたといいます。
 戦後、太平洋戦線、ノルマンディ、地中海上陸作戦などで活躍した勇士たちによって、この足ヒレを使った新しい魅力あふれるスポーツは世界中に広がっていきました。
 それとともに、足ヒレも世界各国に普及していったのです。