フィンの推進力

【さて、フィンを選ぶには:その1】

 自分の体格(身長、体重)から、身体の大きい人は大きめのフィン、身体の小さい人は小さめのフィンを選びます。そして、 

フィンの両端を持って曲げてみたとき、シナリ方が均一なもの。

フィンの両端を持って曲げてみたとき、どのくらいの力が要ったか。

フィンの足を入れるところを持って振ってみたとき、フィンの反発力の感じは、どうだったか。

 1は材質と形状によって、かなりの違いがあります。足の入れるフットポケットとブレードの境目あたりに、違和感のある折れ方をしないものを選びます。2と3では、過去あるいは現在の自分の運動能力、例えば、体力があるほうだとかないほうだとか、水泳をやっているかいないか、ボールを蹴飛ばしたときどのくらい飛んだか、などなどに照らし、自分にとってやや柔らか目のものを選びましょう。

 この項は、これだけでいいのですが、それでは身も蓋もないので少々面倒臭いことを説明します。そんなの付き合っていられないという向きは、赤い部分だけでも目を通してください。

 

【泳ぐ力は、どんな力】
 物体Aが物体Bに力をはたらかせると、物体Bから物体Aに同じ作用線上で、大きさが等しく向きが反対の力がはたらきます(注)魚のひれ、船のスクリュー、水泳する人の手足、フィンなどを物体A、水を物体Bとすると、物体Aが水に力をはたらかせる方法が違っても、この作用反作用の法則で物体Aは反対方向に進みます。

 人の脚の運動は、歩く方向に脚が出るのがいちばん自然なので、フィンキックの基本動作は、クロールのバタ足ような上下運動となります。そこで、水泳のバタ足キックとフィンのキックを比べてみることにしましょう。

 (表1:キックの比較)

キック

水をとらえる
有効面積

水をとらえる面が受ける水の抵抗

ピッチ数

バタ足キック

多くなる

フィンキック

少なくなる

 人は鳥のように空を飛ぶことができません。人が自らの力で空気に作用しても、推進力も揚力も得られないので飛ぶことができないのです。しかし、空気と同じ流体の水の中では、人は浮き、泳ぐことができます。これは水が、空気より820倍もの密度があるからなのです。

 潜れば人は水中で、宙に浮いたようになることができます。水中では、人が3次元方向に自由自在に動き回れます。水は地上にはない立体運動空間を提供してくれる、ありがたいものなのです。

 キックで推進力が発生するのは、図に示すように、水の密度が生む抵抗力が、垂直方向の力と水平方向の力に分かれ、水平方向の分力が推進力になるのです。

 水をとらえる有効面積はフィンの方がバタ足よりはるかに大きいので、そのぶん水の抵抗力も大きくなり、大きい推進力を得られるわけです。また、水の抵抗力が大きいことは、人が動かしにくいことになり、必然的にピッチ数も抑えられます。同じ推進力を得ようとすれば、バタ足はピッチ数が多くなり、フィンは少なくてすむ、すなわちフィンは効率がいいといえます。ピッチ数の多さ少なさは、体力の消耗に影響するので、水中で快適に遊ぶとなれば、効率のいいフィンの方がはるかに有利になります。 

(注):

ニュートンの第三運動法則(作用反作用の法則)

 

【パワーを生む、フィンの要素】

 フィンキックは、バタ足キックより5倍も効率があるといいます。いったい、そのパワーはどこからくるのでしょうか。

 フィンキックの基本は、あおり足、英名でフラッターキック(Flutter Kick)という動作です。Flutterは、羽ばたきする、バタバタする、とかの意味で、空飛ぶ鳥は、羽を胴体の付け根から動かしています。フィンキックも、脚の付け根から動かすのが基本的な動作なので、このようにいわれます。そのほか、はさみ足、ドルフィンキックなどありますが、どれも、水の抵抗力を、いかにして大きい水平分力に変えるか、がポイントになります。

 フィンを蹴り上げるときをアップストローク、蹴り下げるときをダウンストロークといいます。

 フィンのパワーは、フィンの固有な性質とフィンに運動を与える人との相関ですから、正しいフィンキックをしなければフィンが持つ優れた固有の性質を引き出せません。じっくり練習することが大切です。パワーを生む要素としては、表2の通りです。

(表2:パワーを生む要素)

フィンの性質と人の動作

要素

はたらき

フィン固有の性質

フィンの面積

水をとらえる総面積。

材質の硬さ、柔らかさ

ブレードのソリを決定づける

人の動作

ストロークの弧の長さ

フィンが描く軌跡の距離

アタック角

アップストローク・ダウンストロークときのフィンの角度

キックの強弱(数)

フィンを蹴るときの力の強弱(単位時間当りのキック数)

 1.フィンの面積
 フィンの推進力は、フィンの面で水をとらえなければ得られません。推進力の大半はブレードが発生させます。だからといってブレードの面積が大きければいいというものではありません。人が動かせる適度の大きさでなければなりません。素潜りの到達深度を争う競技やフィン競泳で使われる、極端にブレードが長いフィンや両足で1枚のブレードをキックするモノフィンと呼ばれるフィンがありますが、一般的なものでないのでここでは割愛します。

 2.材質の硬さ、柔らかさ
 フィンを動かすと、フィンは独特のシナリをみせます。このシナリの1点をみたときの、水の抵抗力、運動抵抗、推進力の関係は図に示したとおりです。

 フィンは、水の抵抗力を受けて、シナリを作って、推進力を得る、ものですから、材質の硬さ柔らかさが重要な要素となります。硬すぎればシナリませんし、柔らかすぎれば折れ曲がってしまいます。適度なシナリを得るためには、フィンの反発力つまり弾性力が必要になります。フィンの硬さ柔らかさは、この弾性力の強弱ということになります。

 3.ストロークの弧の長さ(幅)
 フィンの先端が、大きい弧を描くように脚全体を動かします。そのとき、アップストロークでもダウンストロークでも、常にブレードが水を捉えているように、膝関節、足関節を伸ばしてください。特に足関節は、バレリーナがトウシューズでつま先で立っているときの足の甲の伸びをイメージしてください。

 フィンは、大きくゆっくり、動かします。

 水面を泳ぐときは、フィンを水面で返すのがコツです。膝を曲げフィンが空中に出て、水面をパッタンパッタンとたたく動かし方はいけません。
 スクーバで潜っているときじは、身体はすっぽりと水中にありますから、脚は後側までストロークの弧の長さをとれます。ストローク幅の範囲だけでいえば、水中の方がフィンの効率を引き出します。

 水面でも水中でも泳ぐ姿勢は、常に水面に平行の姿勢を意識してください。この姿勢が、進む方向に対して最も抵抗のない姿勢です。ただしこのとき、目線は下ではなく、泳ぐ方向を見るように顎を上げます。水面でいうと、おでこの上側で水面を受けるように、顔をもっていきます。

 4.アタック角
 フィンキックは水の抵抗力を、いかにして水平方向の分力を最大まで引き出すかがポイントでした。これらを有効に働かせるには、、フィンが、ストローク上を移動しているとき、フィンがシナル角度が重要になります。これをアタック角といいます。特にダウンストロークからアップストローク、アップストロークからダウンストロークに移るときのアタック角が最も重要で、このときの角度が、その後のストローク上のフィンのシナリに影響します。有効なアタック角を作るには、先にいいましたバレリーナの足です。

 5.キックの強弱
 水を撫でるように、フィンをゆっくり動かせば速度は下がります。逆に、急いで動かせば速度は上がり、瞬発力も得られます。船は、力がいるときでも速度を出したいときも、スクリューの回転数をあげて、それを得ています。スノーケリングでもダイビングでも、時には潮流や波に逆らって泳ぐときもあります。そのようなときは、船がスクリューの回転数をあげるのと同じように、フィンキックのピッチ数を上げて泳ぎきらねばなりません。ピッチ数をあげると水の抵抗力も増して、フィンストロークの形が崩れやすくなりますが、ここは我慢、ストローク幅を加減するなどして、泳ぐ姿勢を維持してください。