溺水

 川に落ちて溺れる、泳げなかったので溺れる、というように溺れの原因の多くは人の不手際にあります。スノーケリングもダイビングも好んで水に入るのですから、それだけ溺れる可能性は高くなりますが、ダイバーが直接溺れることは少なく、器材が不備だった、過剰なウエートを付けていた、波や潮にさらわれた、息こらえしすぎた、窒素酔いだった、メソッドを逸脱したなど、スノーケリングやダイビングのセオリーを守らなかった結果として溺れがおきています。結果としての溺れから身を守るために、これまでいろいろ学んできたといっても過言でありません。

 スノーケリングやダイビングで何かあったときは、「止まる」・「考える」・「行動する」のセルフレスキュー手順で回避するのが常道ですが、不可抗力というものもあって事故がおきないということは100%ありえません。自分は大丈夫だったとしても、仲間やたまたま居合せた人が溺れるかもしれません。溺れは普段の生活でもごく身近なところにありますから、溺れについて知っておくことも大切です。

 溺水とは、淡水や海水などが、気管・気管支を通って肺に入り、肺の損傷を起こしたり、肺胞における酸素の取り込みと炭酸ガスの排泄つまりガス交換が阻害されたり、さまざまな臓器が酸素欠乏による種々の症状を呈する状態をいいます。

【発生メカニズムと病態】

 溺水は一般的に水中に全身が沈んだ状態で発生し、水没していた時間によって症状はさまざまで、溺水により死亡した場合を溺死といいます。溺水の状態や経過から、次の三種類の発生メカニズムと病態があるといわれています。

  1. 湿性溺水……淡水(注1)や海水(注2)などが肺に侵入し、肺胞内に水が入り肺胞におけるガス交換が阻害され、急速に低酸素状態をきたすものです。
  2. 乾性溺水……吸い込んだ淡水や海水など刺激により、喉頭部のけいれんで声門が閉じてしまい、肺に水が入らないのに窒息し低酸素状態をきたしたものです。溺水者の10〜20%にみられるといいます。
  3. 二次溺水……溺れた者を救助し、いったん蘇生したが、ふたたび肺内に炎症性あるいは非炎症性に液体が発生して溜まるものです。すなわち通常の溺水後、一度は状態がよくなったものの数日以内でふたたび状態が悪化するものをいいます。

 冷水が身体に触れることにより、副交感神経を介して反射的に心停止をきたすことがあります。冷水接触による反射性心停止といわれ、溺水ではないが水の中のことなので、レスキューの立場から同じに扱われ説明されてます。

【症状】

 呼吸困難、意識障害、けいれん、チアノーゼ、各種の神経反射低下、ショック、失禁、さらには呼吸および心臓の停止状態におちいります。

 溺れてから救出されるまでの時間経過が長いと、呼吸および心臓の停止をおこしやすくなります。

 それぞれの臓器の障害は低酸素状態が原因ですから、呼吸障害の程度、あるいは心臓停止の時間によって臓器の障害の重症度は左右されます。

【合併症】

  • 肺…………異物が肺に入ったことにとる吸引性肺炎、細菌性肺炎、肺水腫など
  • 神経系……酸素欠乏(アノキシア)による脳障害
  • 循環器系…不整脈、血圧低下、溶血、心不全など
  • その他……急性腎不全など 

(注1) 淡水の場合、肺の界面活性物質(surfactant)を破壊し、肺胞を障害することが原因。
(注2) 海水では海水が高浸透圧のため(3.5%食塩水に相当)、血漿が肺胞へ漏出するため高度の肺水腫をきたします。