【 ディープ(深さ)とは】
ディープダイビングとは深さへの潜水ですが、「深さ」という定義がいまひとつはっきりしません。熱さ冷たさ、高さ低さ、深さ浅さなどは主観的なもので個人によって感じ方が違います。水深18mのダイビングが深い潜水という人がいれば、いや浅い潜水だという人もいます。
おおかたの指導機関は、レクレーションダイビングでの水深限界を30m、ディープダイビング実習における実施水深を18mより深い水域、とすることを推奨してはいますが、定義としての深さは定めていません。つまり、深さは観念的なものと同時に、具体的にもダイバーのその日の体調や気持ちのありようで15mでも深く感じたり浅く感じたり変化するからです。
圧力による諸問題は解明され、予防のための技術や減圧表・ダイビングコンピューターの運用など、総合的なスキルも開発されてきました。
ここで、「ダイビングにおける深さ」というものを知るために、もう一度スクーバダイビングをハード・ソフト面から整理してみましょう。
@自給気式で空気を使うということ
基礎編残圧計の項を思い出してください。空気消費量からみた潜水時間は次表のように水深によって変化します。
例えば、一般的に使用される(注1)10リットルのタンクで、充てんされている圧力は200(kg/cm2)とします。
このタンクに入っている空気の体積は、タンクの容積と充てん圧力の積で2000リットルです。
セオリーとしては、残圧50(kg/cm2)の空気は残すので、使用できる空気量は1500リットルです。
大気圧下で、毎分20リットルの空気の消費(注2)とした場合、各水深の環境圧との積が、その深度の消費量になります。
この条件では、空気消費量からみた潜水時間は、1500リットルを各水深の消費量で割った時間となります。
水深
(m)
|
環境圧
(絶対圧力)
|
消費量
(リットル)
|
空気消費量からみた
潜水時間(分)
|
無減圧潜水限界時間
(分)
|
0
|
1.0
|
20
|
75
|
|
5
|
1.5
|
30
|
50
|
325
|
10
|
2.0
|
40
|
38
|
310
|
15
|
2.5
|
50
|
30
|
100
|
20
|
3.0
|
60
|
25
|
50
|
25
|
3.5
|
70
|
21
|
30
|
30
|
4.0
|
80
|
19
|
25
|
35
|
4.5
|
90
|
17
|
15
|
40
|
5.0
|
100
|
15
|
10
|
この表に、無減圧潜水限界時間を無減圧潜水表(表2)から付けたしてみます。すなわち初回潜水においては、30mまでは無減圧潜水限界時間のほうが、空気消費量からみた潜水時間より長いので無減圧潜水が可能になります。「空気がなくなる」という、はっきりとしたシグナルなら、いやがおうでもダイバーは浮上します。指導機関がレクレーションダイビングの活動水深を30mと奨励するのも、どうやらこの辺に理由がありそうです。
A窒素酔い
海の状況や体調によって、水深25mくらいから窒素酔いになることもありますが、一般的には窒素酔いの現れるのは水深30mくらいからといわれています。
B緊急スイミングアセント(フリーアセント)
水中で空気が断ち切られたダイバーは、バディのオクトパスレギュレーターをもらう、バディブリージングで浮上する、予備タンクを持っている、などの方法で浮上します。もしこのようなバックアップ空気供給源が確保できなかったとすれば、緊急スイミングアセンで浮上することになります。
それでは、どのくらいの深さなら息を吐きっぱなしで浮上できるかは、そのダイバーの技術や能力によるもので一概に何メートルだとはいえません。今から30年くらい前の話しになりますが、海上自衛隊の潜水艦乗組員は潜水艦が事故に遭ったとき、乗組員の潜水艦脱出訓練として、水深20mからの緊急スイミングアセントが実施されていました。潜水艦乗組員といえども元々は普通の人で、訓練によって身に付けるわけです(注3)。つまり、訓練すれば過酷ともいえる20mからの緊急スイミングアセントが可能ということになります。レクレーションダイバーが、水深20mからの緊急スイミングアセントの訓練を必要とするかしないかは別にして、深さを知るひとつの手がかりになります(注4)。
Cレクレーションダイバーの最大深度は?
米国海軍無限圧潜水表は、さらに水深45・48・51・54・57mが表記されています。
45mの無限圧潜水限界時間は5分:反復記号C、48〜57mの無限圧潜水限界時間は5分:反復記号はDになっています。
これらの深度での無限圧潜水限界時間5分が、レクレーションダイバーにとって果たしてどんな意味を持つか、はなはだ疑問になるところです。この立場からするとレクレーションダイバーが到達する深度は、無限圧潜水限界時間10分の水深42mが限界といってもいいでしょう(注5)。この意味から本サイトでは45〜57mの欄は割愛させていただきました。
アメリカ海軍の無限圧潜水表2は、水深42mで終わっています。これは、自給気式空気潜水の限界を示唆し、この深さ以上は別な手立てを講じなければならないことを意味しています。
これら@・A・B・Cを勘案し無減圧潜水表2の範囲でiいえば、レクレーションスクーバダイビングにおいては、
- 水深10mくらいまでは、比較的浅い潜水
- 水深10mを超え20mくらいまでは、中深度の潜水
- 水深20mを超え30mくらいまでは、深度潜水
- 水深30mを超え42mまでが、大深度潜水
といえます。これからすると、3および4がいわゆるディープダイビングの領域になるでしょう。ディープダイビングの領域は、水深にして20mもの開きがあり、水深20m近辺と水深40m付近では、水中の環境にしても圧力にしても、大きな隔たりがあるので水深20mを超えるダイビングは、それ相応の計画と慎重さにたって展開しなければならないといえます。
この分類は、「深さ」を認識いただくためにした本講座独自のもので、誤解のないようにしてください。しかし、指導機関が推奨するレクレーションダイバーの深度限界30mという意味も大分わかってきます。
比較的浅い潜水だから、中深度の潜水だから、といって安心ということはありません。ダイビングはあくまでもダイビングのセオリーにのっとって展開しなければなりません。
(注1)
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日本でレクレーションダイバーに最も多く提供されるタンクです。欧米諸国では11リットルのアルミタンクが提供されますが、世界的にみても空気総量としては、2000〜2200リットルで、あまり差異はありません。
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(注2)
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人によって、潜水中の運動量によってちがいます。一概ではないことを明記しておいてください。
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(注3)
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この訓練はハワイで行っていたということです。今は潜水艦乗組員にも実施されていません。
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(注4)
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潜水艦乗組員にも実施されていないということは、この訓練に相当なリスクを伴うからでしょう。レクレーションダイバーは、信頼できるバディと潜り、互いにオクトパスレギュレーターを、相手のバックアップ空気供給源とすることが肝心です。そのほかに、4リットルくらいの予備タンク(ポニーボトル)を携行するのもひとつの方法です。
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(注5)
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おおかたの指導機関では、水深39mを推奨しています。
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