ダイビングコンピューター

【ダイビング パターンとマルチレベルダイビング】

 スクーバダイビングは、送気式潜水のように送気官と繋がれていない、つまりひも付きでないので、水中で自由に泳ぎまわれます。これが、スクーバダイビングの魅力のひとつですが、ダイバーは、時には深いところへ、ある時は浅いところへ行ったり来たりするものです。

 減圧表の約束事にあるように、「潜水深度とは、その潜水において到達した最も深い深度」ですから、一瞬たりとしても、その深度を採用しなければなりません。となると必然的に無減圧潜水時間はどんどん短くなります。

 減圧表の潜水は、「潜降し」、「ある一定の深度にいて」、「浮上する」、というパターンになっています。つまり、図のような矩形(くけい)パターンを基本としています。逆説的にいうと、窒素の溶解の関係を一定にしないと減圧表を作ることができません。

 水中作業をするダイバーにしろ、レクレーショオンダイビングにしろ、矩形パターンの原則は何ら変わりませんが、時には深いところへ、ある時は浅いところへ、行ったり来たりする行動をとってしまうダイバーには、何らかの方策を講じなければならなくなりました。

 このように、刻々と変わるダイバーの深度と時間に対して、時間的に有利にし、かつ減圧症になるべく罹らないようなダイビングが考えられてきました。これを、マルチ・レベル・ダイビングといっています。

 身体は、窒素が速く溶ける組織と遅く溶ける組織が入り混じっています。深いところや浅いところへ行ったり来たりする潜水において、また浮上後において各組織が窒素をまだ溶解しているのか、それとも排出しているのか、外からではさっぱり検討がつきません。

 刻々と変わる深度や時間に対して、各モデル組織の窒素の状況を感知して、潜水時間や休息時間が計算されれば、反復潜水時の無減圧潜水最大時間を伸ばすことができ、減圧症に罹るリスクも少なくすることができるといえます。しかし、減圧表は、表という性格上これを知ることはできません。

 コンピューター時代になり、さらに演算装置も超小型化にすることができる昨今、「刻々と変わる、ダイバーの深度と時間」に呼応しながら、「モデル組織の窒素の状況」を演算して、潜水中でも、現在深度における無減圧潜水残り時間をリアルタイムに知らせてくれる機器が登場しました。これが、ダイビングコンピューター(注)通称ダイコンです。マルチ・レベル・ダイビングは、ダイビングコンピューターによって、より向上しました。

(注)

ダイビングコンピューターは、無減圧潜水残り時間算出機能や減圧停止指示機能など、減圧に関する機能が組まれているもので、水中時計とは区別されます。

 

【ダイビング コンピューターの機能】

 ダイビングコンピューターの機能は、メーカーによって異なりますが標準的な機能は次の通りです。



     

・水深計測表示機能

現在水深やその潜水で到達した水深を表示

・潜水時間計測表示機能

無減圧潜水残り時間を表示

・浮上速度警告表示機能

速やすぎる浮上に対して音で警告

・体内残留窒素表示機能

バー(棒)表示で体内残留窒素を表示

・体内残留窒素排出時間表示機能

体内残留窒素が抜け去るまでの時間

・水温計測表示機能

水温の表示

・減圧停止指示表示機能

減圧停止が必要になったとき、減圧深度と停止時間を表示

・総浮上時間表示機能

減圧停止を含めた浮上時間を表示

・ダイブプラン表示機能

最初の潜水でも反復潜水でも、予定される深度の潜水時間をシュミレートできる機能

・ログブック表示機能

おのおの潜水のデータを記憶し呼び出せる機能

・高度ランク算出表示機能

水面気圧を感知して、その水面気圧に呼応したダイビングモードに変換する機能

・日付、時計機能

その日そのときのばかりでなく、潜水開始・終了時刻も記録する機能

【ダイビングコンピューター使用上の注意】

 ダイビングコンピューターといえども機械なので、完璧というわけではありません。減圧計算の仕組みはモデル組織の半飽和時間によって規定しています。オールラウンドに自然や人の状況に、いつも合致してくれるわけではありませんから、減圧症や減圧表の仕組みをよく知った上で使用しなければなりません。

 水温や運動的・精神的負荷を伴なうダイビングや体調などは、コンピューターでも計算の要素に入れてくれません。したがって、ダイビングの前提は、少なくとも体調がととのっているなど、あくまでも人間側にあることを忘れないでください。

 コンピューターによるダイビングは、反復潜水を何回重ねようと無減圧潜水が可能になります。しかし、これは、あくまでもコンピューターの計算上のことで、実際にはかなりのリスクを負うことになります。もし、日の3回以上のダイビングをするようなことがあったら、3回目からの潜水はコンピューターだけでなく、減圧表に立ち返ってプランを練ることも大事です。メーカーや機種によって採用する基本的な減圧モデルも違いがありますから、必ず「取扱い説明書」を熟読して使用するように心掛けてください。

 最後に、ダイビングコンピューターは個人と一体のものです。体内残留窒素が表示しなくなったら、人に貸すこともできますがが、そうでないときは人に貸してはいけません。ダイビングコンピューターだけは、自分のものを持つようにして下さい。

 

【ざつがく事典】

 
画期的な三大発明

 1943年のスクーバの発明は、潜水器開発史上画期的なことでした。
 それから35年後の
1978年に再び画期的なダイビングマテリアルが発明されました(USA:scubapro社)。それがBCDで、これによってダイバーはいとも簡単に中性浮力が得られ、水中での行動が一段と容易になりました。
 そして
1987年三度目の画期的な発明であるダイビングコンピューターが、スイスのカール・リーマン、ハインツ・ルクティという技術者(uwatec社)によって世に送り出されました。
 スクーバに追加されたBCDとダイビングコンピューターは、さらなるダイビング活動の可能性を秘めている違いありません。

 スクーバダイビングに必要な用具機材はたくさんあって、どれも欠かすことができませんが、エルジン・キィアンビの言葉を借りれば、スクーバセットBCDダイビングコンピューターは、さしずめ「スクーバダイビングの三種の神器」といえるでしょう。