心肺蘇生法

蘇生法 人工呼吸 事故者に会ったら
事故者は呼吸だけが停止している 気道確保 人口呼吸
事故者は呼吸も心臓も停止している 心肺蘇生法 心臓マッサージの圧迫点
手の置き方 圧迫の深さ
 

【レスキューとファーストエイド】

 レスキューとは、災害や事故に遭ったあるいは遭っている人を救助し、安全な場所や医療機関に移送する一連の救助活動のことをいいます。またファーストエイドとは応急処置のことをいいますが、ちょっとした傷の消毒から止血や人口呼吸などの蘇生法まで広範にわたります。
 ダイビングレスキューにはいるまえに、応急処置の一般的な基本知識として、呼吸やさらに心臓も停止した人(仮死者)に対しての蘇生法と止血法から解説します。


【呼吸停止者】

 日常生活でも次のような原因で、意識を失ったり、呼吸やさらに心臓も停止したりする人はいます。

  • 気道に物がつまる
  • 溺水しかかる
  • 心臓麻痺
  • 頭部に障害を受ける
  • 生物による傷や毒

 呼吸停止はまさに危急状態にあります。人が呼吸停止してからは次のような経過(注1)をたどります。

分類

呼吸停止からの
経過時間

呼吸停止者の状態

第1期

1〜2分

意識不明(反射的な吸引運動)

第2期

2〜4分

呼吸性けいれん

第3期

4〜5分

脳細胞損傷(仮死状態)

第4期

5分以上

終末呼吸運動反復(6分を過ぎるとほとんど絶望)

※ 呼吸停止後、心臓の動きは数分〜数十分続いてから止まります(心拍動停止)。


 左図は、1966年にアメリカのドリンカー博士が世界保健機構(WHO)に報告した「救命曲線」といわれるもので、先のような原因で人が呼吸停止におちった場合、呼吸停止から経過時間が短いうちに人工呼吸を行えば蘇生する確率が高く、反対に経過時間が長くなるとそれだけ蘇生する確率が低く、つまり死亡率が高くなります。

 この救命曲線は、「呼吸停止から5分間」が救命に関して非常に重要な時間となることを意味します。この間に適正な蘇生法が施されれば、命を救える可能性があります。このため、蘇生法は誰もが普通に持っている技術として、消防署をはじめ各市町村役場などでは講習会を開催して蘇生法の普及や啓蒙に努めています(注2)

 ダイビングは、自然の中、まして水の中のことですから、溺水やほかの原因で、自分が仲間が呼吸や心臓も停止したりする状態になるかもしれません。そのためにファーストエイドは、ダイバーとしても固有の技術として身に付けておきたいところです。

 多くのダイビング指導機関では、人工呼吸や心肺蘇生法についてダイビングスキルと並行に、別枠で指導するようにしています。

(注1)

古畑博士の説。

(注2)

日本は一般市民への救急蘇生法の普及は現在も大変低いレベルです。普及率は、シアトル市80%、ニューヨーク市30% 日本全体で13%という数字がでています。日本においては講習を受けただけで、実際には何もできない人が大多数といわれています。

 

【蘇生法】

 蘇生法とは、意識を失い、呼吸やさらに心臓も停止した人(仮死者)に対して、外部から人工的に補助を与えて、呼吸と血液の循環を回復させ生命を救う方法をいいます。
 最近、AED(自動体外式除細動器)の普及が進んで学校やビルやホテルで見かけるようになりました。AEDはたいへん有効な救急器具ですが、水上の場合は使えません。溺者を陸上やボートに引き上げ後AEDがあれば活用できると思いますが、今のところそこまでいっていません。また、蘇生法も人口呼吸は省いて心臓マッサージ1分間100回が有効とされたようですが、溺者の状況をみて従来の方法を選択していくことになると思います。整備されたダイビングスポットにしても、救援救助環境は陸上に比べてかなり劣っているので、対応はそこにいる人の救急努力にかかってきます。
 これからは、心肺蘇生法、AEDの活用などダイビングレスキューにおいて、総合的なメッソドが構築されていくでしょう。ここでは従来の心肺蘇生法について述べていきます。

 まず最初に、

 @ 呼吸だけが停止している。
 A 呼吸・心臓とも停止してる。

かをチェックして蘇生法を開始します。1の場合は人工呼吸、2の場合は心肺蘇生となり、蘇生の順序は、A・B・C・Dと覚えておきます。

気道確保irway open)

人口呼吸reathing)

心臓マッサージirculation)

医者octor)



【人工呼吸】

 呼吸が停止してる者、呼吸・心臓とも停止している者に対して、酸素を与える方法として最初にするのが人工呼吸です。人工呼吸は、応急処置つまりファーストエイドの技術として極めて重要なことです。人工呼吸法には、ニールセン法とマウスツーマウス(あるいはマウスツーノーズ)がありますが、現在では誰もができるマウスツーマウスが広く一般の奨励されています。

 マウスツーマウスは、救助者は自身の口を、呼吸が停止してる者、呼吸・心臓とも停止している者の口に直接あてて、空気を吹き込む方法です。

 本項では、意識を失い、呼吸やさらに心臓も停止した人(仮死者)を事故者といいます。

 

【事故者に会ったら】

1.

まず、意識があるか確かめる。耳元で「大丈夫ですか?」などと呼びかけます。

2.

意識がなかったら、「@呼吸だけが停止しているのか」、「A呼吸・心臓とも停止してるのか」を確かめます。

3.

@呼吸だけが停止していれば⇒人工呼吸

A呼吸・心臓とも停止していれば⇒心肺蘇生

を、即座に開始します。


心臓の拍動を確かめるには一般的には次の部位でおこないますが、ダイバーの場合ウエットスーツの着用があるので頚動脈に触れるのがいいでしょう。
人工呼吸・心肺蘇生は、事故者を平らで固いところで行います。

拍動の確認部位

手首の頭骨動脈

収縮期血圧が40mmHg以下になると、確かめづらくなる。

 

頚動脈

40mmHg以下でも拍動がわかる。

大人では頚動脈、小児では上腕の中間の上腕動脈を触れる。

大腿動脈

あらゆる年齢層に向いている。

 

【事故者は呼吸だけが停止している】

 心臓は働いて血液は循環していますから、人工呼吸で酸素を補給すれば呼吸を回復する可能性が充分あります。蘇生法ABCDから、最初に気道確保、人工呼吸と続きます。

[気道確保(irway open)]

 意識不明に陥ると、あご・首・舌などの力が抜け、舌根が落ち込んだり、吐しゃ物などがつまったりして、気道をふさぎます。気道を開通させないと人工呼吸をしても、事故者の肺に空気は入っていきません。気道確保には次の方法がありますが、気道を確保するだけで呼吸が回復するときもあります。
   

 [頭部後屈法]

 一方のの手を事故者の額に、他方の手を首の後ろ後頭部よりにあてて、静かに持ち上げながら頭を後屈する。喉が開通して口は自然に開きます。

 頚椎損傷が疑われる場合には、この方法は行わないで次の下顎挙上を行います。

 [下顎挙上法]

 頭部後屈だけで気道が開通しなければ、さらに両手の指を下顎の角にあて前方へ押し出します。

[気道内異物の除去法]
    

 [背部叩打法(バックブロー法) ]

 肩甲骨の間を、手の平で打つ方法です。


 [上腹部圧迫法
(ハイムクリック法)]

 左図のiいずれかの姿勢で、上腹部を圧迫します。

 [人口呼吸(reathing)]

 気道が確保できたら人工呼吸に移ります。救助者は深く息を吸ってから、自分の口を大きく開けて傷病者の口を覆うようにします。吹き込んだ空気が漏れないように、事故者の鼻をふさいでいることに留意してください。
     

1.

まず、続けて4回吹き込みます。これを急速換気といいます。このとき、正常に空気が入れば事故者の胸がふくらみもち上がりますから、よく確認しているようにします。

2.

事故者の胸がふくらみもち上がらないときは、気道確保をもう一度きちんとやり直します。

気道確保ができていないのに無理に吹き込むと、

イ.

胃に空気が入り、胃の内容物を嘔吐する原因となり、誤って肺に吸い込み窒息を起こさせてしまうことになります。

ロ.

 

胃に空気が入り膨らんでいるときは、事故者を横向きにし、静かに上腹部を押さえて、胃内の空気を出し、再び人工呼吸を続けますが、吐しゃ物があるときは、指にハンカチやガーゼを巻き、掻きだすようにして拭きとります。

3.

後は、5秒に1回のペースでマウスツーマウスを続けます。1回の吹き込みがすんだら、事故者の胸が沈むを見て、口から息が吐き出されるのを確かめながら行います。

4.

事故者が自力で呼吸を回復するか、救急隊に引き渡すまで続けます。

 

【事故者は呼吸も心臓も停止している】

 この場合には、前記ABに続きCすなわち心臓マッサージが加わります。これが心肺蘇生法(Cardio-Pulmonary Resuscitation:CPR)で、気道確保、人工呼吸、心臓マッサージ(胸骨圧迫)からなっています。

[心肺蘇生法]

心肺蘇生法(COR)の基本動作は、

1.

心臓マッサージのペースは、1分間に100回

2.

救助者1人の場合は、急速換気後、30回の心臓マッサージ、回の吹き込み、30回の心臓マッサージ、2回の吹き込み、を繰返します。

3.

救助者2人の場合も、急速換気後、30回の心臓マッサージ、2回の吹き込み、30回の心臓マッサージ、2回の吹き込み、を繰返します。

4.

ときどき頚動脈触れ、心臓マッサージが効果的におこなわれているか、拍動が蘇ったかを確かめます。

5.

事故者が自力で呼吸や拍動を回復するか、救急隊に引き渡すまで続けます。

 この動作と平行して、119番への連絡と、AEDの手配が大切です。AEDの使用は、AEDから流れる音声指示に従ってください。周囲の人に手伝ってもらうことが肝要です。

[心臓マッサージの圧迫点]

 胸骨の最下位(いちばん下の肋骨が胸骨と合わさったところ)から、指2本分頭側に寄ったところ(胸骨の下部1/3)が圧迫点になります。胸骨末端には剣状突起という尖った骨があるので、そこを圧迫すると内臓を傷つけることがありますから注意を要します。

[手の置き方] 

 救助者は事故者の測位に位置し、事故者の頭側になる腕の手の平の下位部を圧迫点に置き、もう一方の手を重ねます。

 救助者は両腕を事故者の背骨と胸骨の垂直平面上に位置させ、救助者を正面からみると、両肩のラインを底辺、両腕をを斜辺とした二等辺三角形になるようにします。

[圧迫の深さ]

 心臓マッサージのペースは1分間に80〜100回ですが、圧迫したとき事故者の胸が3〜5cm背骨側に沈むくらいの強さで圧迫します。

圧迫をゆるめたときには、手を事故者の胸からはなさないようにします。